住宅ローン減税と耐震基準適合証明書

住宅取得者にとって無視できない制度が住宅ローン減税です。中古住宅(個人間売買)の場合最大200万円が所得税などから控除される制度です。
新築向けの制度だと思われがちなのですが、中古住宅でも利用できます。ただ、住宅ローン減税には様々な適用要件があるので、申請すれば漏れなく利用できるというものではありません。
中古住宅で注意したいのが、築後年数要件という、築年数の要件が定められていることです。築後年数要件に抵触する物件の場合は、取引の進め方が大きく変わるので注意が必要です。

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住宅ローン減税の要件

中古住宅取得時の住宅ローン減税は下記の要件が定められています。

(1)取得した中古住宅が次のいずれにも該当する住宅であること。
イ 建築後使用されたものであること。
ロ 次のいずれかに該当する住宅であること。
(イ) 家屋が建築された日からその取得の日までの期間が20年(マンションなどの耐火建築物の建物の場合には25年)以下であること。
(注) 「耐火建築物」とは、建物登記簿に記載された家屋の構造のうち、建物の主たる部分の構成材料が、石造、れんが造、コンクリートブロック造、鉄骨造(軽量鉄骨造は含みません。)、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のものをいいます。

(ロ) 地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるもの (耐震基準)に適合する建物であること。
(注) 「地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるもの(耐震基準)に適合する建物」とは、その家屋の取得の日前2年以内に耐震基準適合証明書による証明のための家屋の調査が終了したもの、その家屋の取得の日前2年以内に建設住宅性能評価書により耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)に係る評価が等級1、等級2若しくは等級3であると評価されたもの又は既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されているもの(住宅瑕疵担保責任法人が引受けを行う一定の保険契約であって、その家屋の取得の日前2年以内に締結したものに限ります。)をいいます。

(ハ) 平成26年4月1日以後に取得した中古住宅で、(イ)又は(ロ)のいずれにも該当しない一定のもの(要耐震改修住宅)のうち、その取得の日までに耐震改修を行うことについて申請をし、かつ、居住の用に供した日までにその耐震改修(租税特別措置法41条の19の2(既存住宅の耐震改修をした場合の所得税額の特別控除)第1項又は41条の19の3(既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除)第6項若しくは第8項の適用を受けるものを除きます。)により家屋が耐震基準に適合することにつき証明がされたものであること(コード1215「要耐震改修住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」参照)。
ハ 取得の時に生計を一にしており、その取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者などからの取得でないこと。
ニ 贈与による取得でないこと。
(2) 取得の日から6か月以内に居住の用に供し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続いて住んでいること。
(注) その個人が死亡した日の属する年にあっては、同日まで引き続き住んでいること。
 なお、居住の用に供する住宅を二つ以上所有する場合、控除の適用対象は主として居住の用に供する一つの住宅に限られます。

(3) この特別控除の適用を受ける年分の合計所得金額が、3千万円以下であること。
(4) 取得した住宅の床面積が50平方メートル以上であり、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること。
(注) この場合の床面積の判断基準は、次のとおりです。

イ 床面積は、登記簿に表示されている床面積により判断します。
ロ マンションの場合は、階段や通路など共同で使用している部分(共有部分)については床面積に含めず、登記簿上の専有部分の床面積で判断します。
ハ 店舗や事務所などと併用になっている住宅の場合は、店舗や事務所などの部分も含めた建物全体の床面積によって判断します。
ニ 夫婦や親子などで共有する住宅の場合は、床面積に共有持分を乗じて判断するのではなく、ほかの人の共有持分を含めた建物全体の床面積によって判断します。
 ただし、マンションのように建物の一部を区分所有している住宅の場合は、その区分所有する部分(専有部分)の床面積によって判断します。
(5) 10年以上にわたり分割して返済する方法になっている中古住宅の取得のための一定の借入金又は債務(住宅とともに取得するその住宅の敷地の用に供される土地等の取得のための借入金等を含みます。)があること。
 一定の借入金又は債務とは、例えば銀行等の金融機関、独立行政法人住宅金融支援機構、勤務先などからの借入金や独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社、建設業者などに対する債務です。ただし、勤務先からの借入金の場合には、無利子又は0.2%(平成28年12月31日以前に居住の用に供する場合は1%)に満たない利率による借入金は、この特別控除の対象となる借入金には該当しません。また、親族や知人からの借入金は全て、この特別控除の対象となる借入金には該当しません。
 詳しくはコード1225(住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等)を参照してください。
(6) 居住の用に供した年とその前後の2年ずつの5年間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例など(租税特別措置法31条の3第1項、35条1項(同条3項の規定により適用する場合を除きます。)、36条の2、36条の5若しくは37条の5又は旧租税特別措置法37条の9の2)の適用を受けていないこと。

(1)は本ページで取り扱う築後年数要件です。
(2)は居住に関する要件です。(自らが居住する家の取得でないと制度が適用されません)
(3)は年収の要件です。
(4)は床面積の要件です。
(5)は借入の要件です。住宅ローン減税という名称のとおり、一般的な住宅ローンを組まないと制度対象になりません。
(6)はその他の特例を受けていないかどうかの要件です。

築後年数要件を緩和する方法

前述のとおり、住宅ローン減税には築年数の要件があります。木造住宅など非耐火住宅の場合は20年以内、マンションなど耐火住宅の場合は25年以内という要件になります。
この築後年数要件に抵触する物件の場合は、下記いずれかの方法を適用する必要があります。

方法1 耐震基準適合証明書を取得する<(1)-(ロ)に該当>

取得する住宅の耐震性が確保されていることが住宅ローン減税の基本的な考え方です。耐震基準適合証明書付きの住宅取得と言い換えることもできます。
具体的には、所有権移転までに耐震基準適合証明書のための調査が完了したものとなります。実際には耐震診断を実施すると多くの場合で基準を満たさないので、売主が耐震改修を実施していた場合以外は、通常の取引でこの方法を行うことは難しいです。
耐震診断を実施すれば耐震基準適合証明書を発行してもらえると勘違いしている方が多いのですが、耐震基準適合証明書発行のためには耐震改修が必要と判断する方が現実的です。
通常の不動産取引では、所有権移転前の耐震診断を行うことはできても、所有権移転前の耐震改修工事は、諸々の問題から実現が困難です。

方法2 既存住宅売買瑕疵保険に加入する<(1)-(ロ)に該当>

既存住宅売買瑕疵保険に加入すると、付保証明書という書類が発行されます。築後年数要件に抵触しても、所有権移転までに付保証明書が得られる場合は住宅ローン減税の対象とすることができます。
ここで注意したいのが、所有権移転までに付保証明書が発行される、ということです。既存住宅売買瑕疵保険には、検査不適合箇所を所有権移転後のリフォームで改善すればよい、引き渡し後リフォーム特約というものがあるのですが、引き渡し後リフォーム特約はこの制度の対象にはならないのです。(引き渡し後リフォームで耐震改修を行う場合は次の方法となります)

方法3 所有権移転後に耐震改修工事を実施して耐震基準適合証明書を取得する<(1)-(ハ)に該当>

もっともややこしい方法です。しかし、この方法が最も現実的です。要件は所有権移転までに耐震改修工事を行う申請(耐震基準適合証明書仮申請)を行い、居住開始までに耐震改修工事を実施して、耐震基準適合証明書を発行してもらうこととなります。
まず、所有権移転までに仮申請が必要です。この仮申請を行う建築士事務所と、実際に証明書を発行する建築士事務所が異なると無効になります。つまり、所有権移転までに改修工事を行う業者などを決めておく必要があります。
次に注意が必要なのは耐震改修工事が前提ということです。このルールは後から付け加わったもので、方法1で所有権移転前の工事が非現実的なので、いたしかたなく所有権移転後の工事でも認めましょう、という考え方です。
耐震診断の実施時期までルール化されていないのですが、仮に所有権移転後に耐震診断を実施して、基準を満たすと判定された場合は、その時点で制度対象外となります。(方法1で手続きしておけばよかったという結果になります)
最後に居住開始の問題があります。本来の手続きでは、所有権移転登記を旧住所で行って、所有権移転後引っ越しを行い、住民票を移してから、住所変更登記を行う流れとなります。
しかし、不動産業界の慣習で「新住所登記」を行うことが通例となっています。所有権移転前に住民票を移しておいて、住所変更登記を省略しようとするものです。
方法3ではこの「新住所登記」を行ってしまうとその時点で制度対象外となります。要件にある居住の用に供した日は住民票の移転日になるからです。

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耐震基準適合証明書とは

耐震基準適合証明書はその名のとおり、当該家屋が耐震基準を満たすことを証明する書類です。建築士事務所に所属する建築士などが発行します。
見た目はほとんど同じなのですが、住宅ローン減税用、不動産取得税用、登録免許税用の3種類あります。
耐震基準適合証明書を発行してもらう時には必要な証明書をまとめて発行してもらうことと、それぞれどの目的で利用する書類なのかを付箋などで明示しておいてもらった方が良いです。

耐震基準適合証明書を利用するタイミング

登録免許税

最も早いタイミングで必要になるのが、登録免許税用です。所有権移転の際に司法書士が手続きを行うために必要となります。所有権移転にあたって、耐震基準適合証明書が発行される手続きであることと、いつまでに証明書を用意すればよいのかを予め司法書士に確認しておく必要があります。

不動産取得税

不動産取得税の築年数要件は住宅ローン減税とは異なるのですが、不動産取得税が発生する取引を行った場合は、所有権移転後に役所から通知が来ます。その通知に記載された窓口へ不動産取得税用の耐震基準適合証明書など必要書類を持参して、不動産取得税減額申請を行います。
詳細は後述しますが、旧耐震戸建てを取得する際は、不動産取得税が結構な金額になる場合があるので、きちんと証明書を準備しておいた方が良いと思います。

住宅ローン減税

確定申告の際にその他必要書類と合わせて提出します。書類を発行してしまってから時間が空いてしまうことが考えられるので、紛失しないように気を付けましょう。
所有権移転後に発行してもらった場合は、仮申請書や耐震改修工事の請負契約書など追加で必要な書類があります。

その他

耐震基準適合証明書は上記の税制のために作られた書類ですが、建築士が当該家屋の耐震性を証明する書類になるので、他の目的で利用されることがあります。
実際の取引で利用事例が多いのが地震保険の割引です。地震保険には様々な割引制度があるのですが、それらに適合しない場合、耐震基準適合証明書があれば、耐震診断割引(10%OFF)を適用することができます。

証明書発行の手続き

耐震基準適合証明書の発行には耐震診断が必要になります。ここでは工事が必要な場合と不要な場合に分けてご説明します。

耐震改修が必要な場合

耐震診断

耐震診断を実施しないと工事が必要かどうか判断できず、工事費用がどれくらいかかるのかも判断できません。
耐震診断は有償ですが、可能であれば不動産売買契約前の実施をお勧めします。

改修設計

耐震診断で基準を下回ると判定されたら、改修設計を依頼します。この時に改修費用の見積りが提示されます。
他社で行われた耐震診断を鵜呑みにすることはあり得ないので、改修費用の見積りに納得できない場合は、別の事業者へ耐震診断を再度依頼することになります。

耐震基準適合証明書仮申請

所有権移転までの工事は現実的ではないので、耐震基準適合証明書仮申請を行います。この仮申請は改修工事を依頼する事業者を決定したと同じ意味となります。
※仮申請の建築士事務所と耐震基準適合証明書を発行した建築士事務所が異なる場合は無効となります。

所有権移転

旧住所のまま所有権移転を行います。所有権移転後に改修工事を行う場合は、登録免許税の減額は受けられません。

改修工事

所有権移転されたら速やかに改修工事を着工します。所有権移転から6か月以内に居住するというのも要件になるので、期限内に改修工事を完了させて証明書を発行してもらう必要があります。
もし、工事期間中に不動産取得税の通知が来た場合は、役所へ工事中である旨を伝えて必要な手続きを行ってください。

耐震基準適合証明書発行

完工したら速やかに証明書発行をしてもらいます。

耐震改修が不要な場合

耐震診断

耐震診断を実施しないと、工事が必要か不要か判断できません。耐震診断が不要なケースも稀に考えられますが、耐震診断の依頼を実際に進めると判明するので、買いたい物件が見つかったらまずは耐震診断を依頼しましょう。

耐震診断結果報告

耐震診断の結果報告を受けて、基準を満たしていることを確認します。耐震診断の現地調査から結果報告まで10日ほどかかるケースもあるので、早めに手続きしましょう。

耐震基準適合証明書発行

工事が不要な場合は速やかに証明書発行を行ってもらいます。証明書を依頼する時には予め取引を担当する司法書士に証明書提出の期日を確認しておき、具体的な提出日を建築士事務所に伝えておきます。※制度に不慣れな建築士もいるので、いつまでに送ってほしいと明確に伝えることが大切です。

既存住宅売買瑕疵保険の手続き(売主が個人)

インスペクション

既存住宅売買瑕疵保険に加入する場合には、建築士によるインスペクションを行い、瑕疵保険検査基準に合格する必要があります。
インスペクションを実施しないと、検査基準を満たすかどうか、改修工事にどれくらい費用がかかるのかを判断できないので、買いたい物件が見つかったら速やかにインスペクションを実施します。

検査不適合の場合

瑕疵保険検査基準は主に劣化の項目となります。雨漏れなど大きな劣化事象がなくても、外壁のひび割れやコーキングのひび割れなどはよくある劣化事象です。
検査不適合と判定された場合は、改修工事費用を確認して、所有権移転までに工事を行うことができるか売主と交渉する必要があります。
所有権移転までに改修工事ができない場合は、耐震基準適合証明書を発行しなければ住宅ローン減税の対象とすることができません。

検査基準に合格した場合

速やかに瑕疵保険の加入手続きを行います。手続きはインスペクションを実施した建築士事務所が行います。この時、瑕疵保険の付保証明書が得られる取引であることを事前に司法書士へ伝えて、付保証明書の提出期限を確認し、その日までに付保証明書を届けてもらうことを条件に建築士事務所へ依頼することが大切です。

既存住宅売買瑕疵保険の手続き(売主が宅建業者)

買付申込の時に取引の条件にする

売主が宅建業者の場合、既存住宅売買瑕疵保険の手続きは売主である宅建業者でしか行うことができません。
買付申込を行う際に、既存住宅売買瑕疵保険の加入を条件に交渉することをお勧めします。それより後のスケジュールになると、売主に手続きしてもらえないリスクが増えるだけです。

建物別取引の注意点と判断基準

これまで記載したように、住宅ローン減税関係は非常に判断が難しいです。取得する建物によっても判断が変わりますので、買いたい物件が見つかったら、下記のいずれに該当するか確認し、必要な手続きを把握しておいた方がよいです。

木造住宅 築20年以内

築20年以内の木造住宅は築後年数要件に抵触しません。
住宅ローン減税が目的ではなく、耐震性が気になる場合は、建築士へ相談します。※耐震改修を取り扱ているリフォーム会社を選択すると、スムーズに確認できます。

木造住宅 築20年超え

木造住宅で築20年を超える場合は、住宅ローン減税を適用するための手続きが必要です。耐震診断と瑕疵保険の検査は、同じ建築士に同時に依頼することができるので、あわせて検査を依頼し、瑕疵保険の検査基準に合格していれば瑕疵保険の加入を、瑕疵保険検査不適合の場合は耐震基準適合証明書発行の流れとなります。

木造住宅 旧耐震

旧耐震の場合は、瑕疵保険に加入するためにそもそも耐震基準適合証明書が必要となるため、耐震基準適合証明書発行のルートで検討します。
旧耐震の場合は、改修費用が高額になるケースもありますので、必ず不動産売買契約までに耐震診断を実施し、改修費用が予算に収まるかどうか確認します。

2×4 築20年超え

同じ木造でも2×4工法は判断が異なります。在来工法と違って耐震診断の結果基準を満たすと判定されるケースが多いからです。必ず所有権移転までに耐震診断を実施し、基準を満たすかどうか確認する必要があります。
※2×4工法の耐震改修工事は思った以上に費用がかかることがあるので、耐震診断の実施は不動産売買契約前にした方が無難です。

戸建て RC造

RC造の場合、木造住宅と耐震診断法が異なり、費用も高く実施できる建築士事務所も少ないです。新耐震の場合は瑕疵保険ルートを検討するのが現実的です。
RC造は耐火住宅になるので、築後年数要件は25年です。

戸建てその他工法

鉄骨造・軽量鉄骨造など他にも様々な工法があります。基本的にはRC造と同じで、木造住宅用の耐震診断法が利用できないので、瑕疵保険ルートで検討します。
もし大手ハウスメーカーによる建築だった場合は、建築した大手ハウスメーカーで耐震基準適合証明書を発行してもらえることがあるので、まずは新築時のハウスメーカーへ確認を行います。

マンション 築25年以内

築25年以内のマンションは築後年数要件に抵触しません。マンションの耐震は共用部の問題なので、耐震診断実施済みでないマンションの場合は、管理組合で耐震診断を実施しない限り耐震性を確認することができません。

マンション 築25年超え(新耐震)

築25年超えで新耐震のマンションの場合は、瑕疵保険ルートを検討します。戸建てと違いマンションは長期修繕計画を立て定期的なメンテナンスを実施していることが多いので、手続きをすれば瑕疵保険に加入できるケースが多いです。

マンション 旧耐震

旧耐震のマンションは、そのマンションが耐震改修済みの場合を除いて、住宅ローン減税を適用させることは困難です。

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