不動産取引ガイド

築古マンションの「出口」準備?!法改正でリノベや敷地売却も選択肢に!

2026年4月から施行された改正区分所有法により、マンション建て替えの決議要件が緩和されました。
これまで区分所有者と議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成が必要だったところ、耐震性の不足や火災安全性の欠如など一定の条件を満たす場合は4分の3以上に引き下げられます。
法的なハードルは確かに下がるが、多額の資金をどう捻出するかという根本的な問題は依然として残ります。
建て替えだけに目を向けるのではなく、マンションの「出口戦略」全体を早期に考えることが、これからの時代に求められています。

■マンションの解体費を積み立てる異例の管理組合

築80年でマンションを解体できる費用を、修繕向けとは別に積み立てているのが、「高島平ハイツ」です。解体費を計画的に積み立てるという取り組みは、全国的にも極めて珍しいケースです。
数年前、加入していた積立型のマンション管理組合向け保険が販売停止となり、約3000万円の満期金の活用法をめぐって議論が起きたそうです。
同マンションは1974年築で、当初は建て替えの声も上がりましたが、詳しく調べると、容積率の緩和が難しく、既存の所有者が多大な費用を負担しなければ実現の見通しが立たないことが明らかになったようです。
そこで発想を転換して、築80年目を『マンション使用期限』とひとまず定め、建て替えが困難な場合でも、最低限、解体費だけは賄える準備をすることになったようです。
3000万円の満期金を元手に、修繕積立金の約10%を毎年加算し続け、80年目に必要な解体費を確保する長期計画を策定されました。
住民間で将来の「終わり」を共有し、逆算して備えるという姿勢は、多くのマンション管理組合にとって参考になる先進事例といえます。

■急増する築古マンションの対策は待ったなし?!

国土交通省によれば、一般に「築古」とされる築40年以上のマンションは2024年末時点で148万戸にのぼります。
これが2044年末には482.9万戸へと急増する見通しとなっています。
築40年を超えたからといって直ちに建て替えや大規模修繕が必要になるわけではありませんが、老朽化が進む高経年マンションへの早期対応は社会的な急務となっています。
今回の法改正の背景には、こうした切迫した状況への対応という社会的要請があります。
建て替え決議の原則は法改正後も区分所有者と議決権の各5分の4以上の賛成が必要である一方、耐震性や火災安全性の不足など一定条件を満たす場合は同4分の3以上に緩和されます。
しかし専門家の間では、「法的ハードルは下がっても、資金的な問題は容易に解決しない」との声が根強くあります。

■マンションの大型化が難しく、資金負担は増加の一途をたどっている?!

かつての建て替えは、マンションを大型化・高層化し、増えた床面積を外部へ販売した収益を工事費に充てるのが典型的なモデルです。
しかし近年は、もともと容積率に余裕がない物件が増え、大型化が困難なケースが目立ちます。新規床の販売による収益が見込めない分、既存の区分所有者の負担は重くなる一方です。
国交省のデータによれば、1996年まで区分所有者1人あたり340万円程度だった建て替え費用の負担は、2017〜21年には1900万円以上に跳ね上がりました。
さらにその後、深刻化する人手不足や建設資材の価格高騰を背景に、工事費はさらなる上昇傾向にあります。
建て替え後の想定価格や容積率緩和の可能性も加味して試算したところ、関東・関西といった人気エリアの物件でさえ、所有者1人が2000万円を負担しても、99%程度の物件では建て替えが成立しないという結果が出でているようです。
地方では、さらに多額の負担が必要と見られています。よほどの好条件がそろわない限り、法改正後も建て替えは現実的に難しいと考えられています。
総務省の「家計調査(2人以上世帯)」によれば、2024年の1世帯あたりの貯蓄額は1984万円。建て替え工事中には仮住まいの家賃や引っ越し費用なども発生するため、2000万円超の負担を全員が捻出できる状況は極めて限られると言わざるを得ません。

■マンションは建て替え以外の「出口」も法整備が前進している?!

今回の法改正では、建て替え以外の「出口」に関するルールも新たに整備されました。
老朽化したマンションを最終的にどう処理するかという観点から、複数の選択肢が明文化されたことは大きな意義があります。
具体的には、既存の主要な躯体を維持しつつ必要な補強や設備更新を行う「1棟リノベーション」、建物を解体した上での敷地売却、そして建物と敷地を一括して売却する方法などが、新しい建て替えルールと原則として同様の決議割合で承認できるようになりました。
建て替え以外にも、マンションが耐用年数を終える局面での選択肢が法律上に明示されたことは、確かに大きな一歩となります。
1棟リノベーションについては工事費自体は建て替えの6〜7割程度で実施できる可能性があるが、建て替えと異なり新規床の外部販売は通常想定しないため、既存所有者の費用負担は依然として重くなります。
加えて、1棟リノベーションには工事中の仮住まい確保が必要となるなど、実務面でのハードルも少なくありません。
住民の高齢化が進む築古マンションでは、一時的な転居そのものが困難なケースもあり、単純に費用だけでは測れない課題も存在します。

■築古マンションの敷地売却にもコストと合意形成の壁が存在する?!

一方、敷地売却を選択した場合、区分所有者の多くは対価を受け取り、それぞれ新たな住まいを探すことになります。
しかし、解体費の高騰という現実が売却益を圧迫します。
今回の法改正で建物を残したまま敷地売却を進めやすくなる仕組みも整いましたが、解体費が購入価格から差し引かれる形になるため、所有者の手元に残る金額は想定より少なくなりかねません。
受け取れる金額が低すぎると、緩和後の議決要件を満たしていても、実際の合意形成は難航する可能性があります。
区分所有者それぞれの年齢や資産状況、地域の不動産市況によって受け入れられる条件は異なるため、丁寧な情報共有と粘り強い合意形成のプロセスが不可欠です。
前述の高島平ハイツは、この点においても先を見越した備えを講じています。
1棟リノベーションができるなら、積み立ててきた解体費は工事費へ回したいようです。
敷地売却なら解体費を自前で賄えるため、売却価格の交渉で有利な立場に立てるものと思います。
さらに、もし建て替えが実現した場合は、積み立てた解体費用を工事中の仮住まい確保の資金として住民に分配することも選択肢になります。
大規模災害が発生した際には、その資金を復旧費用に充てる事も可能となります。
長期的に複数のシナリオを想定し、積み立てた資金を柔軟に活用できる体制を整えている点は、他の管理組合にとって示唆に富みます。

■築古マンションは早期の準備と情報共有が鍵となる?!

法改正の基本内容を知ることはもちろん重要ですが、それ以上に、法律が示す各『出口』の実現にそれぞれ何が必要なのかを具体的に把握し、準備を早い段階から始めることが重要です。
マンションの老朽化は、放置すればするほど選択肢が狭まり、住民の合意形成も難しくなります。
管理組合として将来の「出口」を共有の議題として取り上げ、専門家の助言も活用しながら、長期的な計画を着実に進めていくことが求められます。
法改正はその取り組みを後押しする一つの契機だが、最終的にはそれぞれのマンションの住民が、自らの問題として向き合う覚悟を持てるかどうかにかかっています。
ぜひ、今後の参考にお役立てください。

法人営業部 犬木 裕

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