不動産取引ガイド

信頼できるパートナー選び

不動産事業者の間では物件購入の要素として「どの物件を買うか」「いつ買うか」「誰から買うか」が重要であると言われています。
不動産仲介業というのは「人の褌で相撲をとる」と揶揄されるように、自らの商品を売る取引ではなく、他人のモノの取引をお手伝いするという形式で、この仲介という取引形態が一般の方にはなかなかわかりにくいのが実情です。
皆さんが興味を持った物件は、広告を掲載している会社からしか買えないのではなく、ほとんどの場合、どの仲介会社でも取引可能な場合が多いのです。
今回は「誰から買うか」についてご説明いたします。

■物件が良ければいいんじゃないか、は危険な発想です

購入するのが住宅なので、良い住宅であれば誰から買っても同じじゃないかとお考えの方もいらっしゃると思います。
問題なのは、不動産の購入は最良(ベスト)を求めるものではなく、自分にとっての最適(ベター)を選択する行為だということです。※不動産に限ったことではありませんが……
不動産業界では情報の非対称性ということが長年問題視されてきました。
消費者が得られる情報量と事業者が持つ情報量に差があり、消費者が不利な取引を強いられるのではないかという懸念です。
つまり、皆さんが契約に至るまでに行う最適だ!という判断には、取引に携わる事業者による情報提供が不可欠で、悪質な事業者に誘導される、判断を歪められる可能性が否定できないのです。

物件が良いかどうかは重要な判断基準です。
しかし、物件が良ければ後は何でもよいという考えを持つ人は、悪質な事業者にとって「やりやすいお客様」でしかありません。

異なる判断軸を持って、多角的に検討するのが安心・安全な不動産取引の基本姿勢です。

■法律で担保されていること、されていないこと

よく不動産会社の担当者が「お家のプロなので任せてください!」というような表現をします。
ここで不動産会社=家のプロと判断するのは正確ではありません。
法律で定められる不動産会社(宅建士)の役割は、安全な取引を担うことです。つまり不動産会社は不動産取引のプロなのです。

それでは住宅の安全性を担うのは誰でしょうか。
法律上では住宅の性能を担保するのは建築士の役割となります。
新築の場合は、建築に携わった建築士の存在が明らかにされますし、建築した事業者も性能に対して責任を負わなければなりません。
新築の場合は少なくとも法律上は安心が担保された家しか購入できない仕組みになっています。
※欠陥住宅問題など法律の範囲を超える問題があるので、新築だから安心とは言い切れません。

中古住宅の場合はどうでしょうか。
リフォームを行わない場合は建築士や建築会社が関与しない取引も多くあります。
中古の取引であっても消費者を保護する制度は設けられています。
重要事項説明はその最たるものです。
重要事項説明は義務なので、説明を行うために必要事項の調査を不動産会社が行い、消費者に情報提供します。
ですが、中古住宅の現在の性能を調査することまでは求められていません。
重要事項説明書には、既存住宅状況調査報告書の有無を記載する項目だけが存在し、調査がない場合は無にチェックを入れれば良いだけとなります。
不動産売買契約の実務と制度設計の思惑が合致していないこともあり、不動産売買契約までに調査が実施できないケースも多く、残念ながら既存住宅状況調査報告書の有無については無とチェックされるケースが多いです。

以上を踏まえて、不動産会社の担当者が言う「お家のプロなので任せてください!」が法律の制限という最低限のラインすら超えていない、悪く言うと口っぱりな表現であることがご理解いただけると思います。

誤解がないように補足しますが、先に書いた不動産会社が違法なことを行っている訳ではありません。
お伝えしたいのは、取引の全てを法律で雁字搦めにする訳にもいかないので、法律でやらなければならないとされていることと、不動産会社が良かれと思って行うこととが存在し、この「良かれと思って」が中古住宅を検討する際に重要な判断材料となるということです。

■判断基準は具体的かどうか

ここからようやく本記事のテーマである「誰から買うか」についての説明になりますが、結論を申し上げると、具体的かどうかが判断基準となります。

「誰から買うか」を言い換えると、この会社(もしくは人)は〇〇だから安心だ、ということになります。
この判断基準は細かいことを拾うとキリがありません。
優先順位をつけることが大切です。

例えば会社を対象とする場合、この会社で取引しても良いか?という判断には、たくさんの情報を持っているか、営業に契約を強いる体制でないか、購入者の疑問を解消する仕組みがあるか、など様々な基準が出てきます。
しかし会社を対象とする場合に最低限抑えなければならないのが「この会社は倒産しないか」という疑問点です。
これに対して会社側が〇〇だから倒産とは程遠いので安心してください、という問答になる訳ですが、ここで帰ってくる理由が具体的かどうかで信用できるかどうかを判断する訳です。

少しわかりにくい例だったので、もう一つ。
中古住宅の検討時には、新築と違って様々な懸念事項があり、大きなものとして住宅性能が挙げられると思います。
中古住宅は性能が心配という問いに対して、○○だから安心です、という回答となるのですが、この回答が具体的かどうかで判断します。
住宅性能についてはもう少し踏み込んで、具体的なサービスや仕組みが用意されているかどうかで判断します。
「この物件は新耐震なので大丈夫ですよ」と言われても、新耐震だからと言って安心してはいけないというのは熊本地震で明らかになったことです。
調べもせずに安心ですというのは信用ならないということになります。
これに対して、当社ではご要望に応じて建築士による建物調査のサービスをご用意しています、とか、ご不安な方向けに既存住宅売買瑕疵保険をお勧めしています、といったように具体的な仕組みで回答が得られればより安心という訳です。

■相性の良い担当者との出会いが一番重要

誰から買うかの誰は会社に限ったことではありません。
ご存じのように不動産業界は離職率が高い業界としても有名です。
担当者に簡単に辞められては困りますね。
また、前述の通り、法律で制限された最低限やらなければならないことよりも、良かれと思って提供してくれる情報が重要となりますので、担当者の知識やスキルが重要となります。

中古住宅を購入してリフォームを行うとします。
現在国は既存住宅流通の活性化に対して様々な補助制度を用意しています。
また、リフォームについても国だけでなく地方自治体でも様々な補助制度が用意されています。
利用できるものがあれば積極的に使いたいものです。
ここで気が利かない担当者は、補助制度は不動産取引とは関係のないことなので、お客様の方で手続きしてください、という対応となります。

しかし購入者にとっては補助金が利用できるかどうかは重要です。
場合によっては補助金が出るからその物件を購入できるという判断もあり得ます。
ただ、補助金が利用できるかどうかの確約を不動産業者が判断することはできません。
物件の要件だけなら良いのですが、多くの場合実施するリフォームにも要件が定められているからです。
購入者が一番欲しい「この計画なら大丈夫です」という確約は得られないものの、「この内容なら大丈夫だと思われます。詳細は○○へ確認してください。」と確約を得るための道筋を示してくれるのが信用できるパートナーというものです。

不動産購入の際に、物件以外で検討しなければならないことは多岐に渡ります。
お客様の要望をくみ取って適切にアドバイスするためには、不動産会社の担当者に高いレベルの知識やスキル、経験が求められるのです。

ただ担当者の質を見極めるのは困難です。
悪質な事業者ほど「口が上手い」からです。
そこで担当者の質が良いかどうかではなく、自分と相性が良いか、ストレスなくコミュニケーションがとれるかどうかを判断材料にすることをお勧めします。
自分にとってだけでなく、相手にとても相性の良い関係が構築できれば、その担当者のスキルや知識が不足していても、問題解決の必要性を訴えれば、関係者や専門家に聞くなど、解決策を講じることができるからです。
最もよくないのは、情報が不足しているために、購入者が検討するべき情報に気付くことができないことだと思います。

■取引初期段階は積極的なコミュニケーションを

最近はインターネットの広告で物件探しをすることから不動産購入を始める方が多いので、担当者との直接のコミュニケーションを避ける方がいらっしゃいます。

現在のところ、不動産会社と直接のコミュニケーションを取らずに物件購入することは、不動産会社側は対応できるものの、購入者がそれを受け入れることができません。
高額な買い物なので全て自己責任で判断できないからです。
どこかのタイミングで直接の接点を持たないと住宅を購入することは難しいのです。

消費者が事業者とのコミュニケーションを避ける理由は、単純に煩わしいからと言うのもあると思いますが、強引な営業行為を懸念するというのもあると思います。
事業者の質を見極める、また、相性の良い事業者(担当者)と出会うには、特に取引初期段階で、避けるのではなくむしろ積極的にコミュニケーションを取ることがお勧めです。

メールやLINEでいいのではないか?と思われる方が多いと思いますが、漠然とした不安や疑問を文字としてアウトプットするのは思いのほか大変な作業となりますし、文字には表しにくい雰囲気を察することや察してもらうには直接のコミュニケーションが必要です。

世間ではDXとかAIとか騒がれていますが、商売というものの基本は人と人なので、事業者と接点を持つのはいたしかたないと早めに割り切ってしまうのが良いと思います。
とは言え、どのようなタイミングで接点を持てば良いか分かりにくいと思いますので、一つご提案いたします。
それは積極的に物件の内見に行くことです。
インターネットの物件広告で検討するに値するかを判断し、多くの物件情報を除外されていると思います。
しかし、物件広告に掲載できる情報はほんのひと握りで、実際に見てみないとわからないことが多いです。
広告を絞りに絞って1件だけ内見して、その物件を契約する、なんてことはほとんどありません。
広告では情報が不足しているので、ほとんどの方が数件~数十件と実際に見てみないと、買って良いかどうか判断できないのです。
ここで内見が手間だといって嫌がる担当者は外れです。
相性が悪かったと割り切って他の事業者に当たった方が良いでしょう。

物件購入時の不動産会社の担当者は、安心・安全な取引のために欠かせない重要なパートナーです。
はっきり言うと不動産のことだけしか行わない担当者では、中古住宅の取引は危険です。
住宅購入に対する希望や想いを気兼ねなく伝えることができ、また、皆さまの要望を汲み取って必要な情報を集めてくれる関係を構築できないと、検討するべき情報が多すぎて、変な妥協を強いられる結果になりかねません。

不動産購入はどんな物件を選ぶかの前に、「誰から買うか」が重要となりますので、事業者選び、パートナー選びを積極的に行うことをお勧めいたします。

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