土地や建物など不動産ごとに17ケタの数字を割り振って住所を識別する「不動産ID」を使って、ビジネスを効率化する官民の取り組みが動き出しています。数字や漢字、かなが交じった住所は表記が揺れやすく、業務の手間やミスが発生しやすいといった問題を解消するためです。数字のみに置き換えることで、物流業界などの企業の業務効率化につなげる狙いもあります。
■そもそも「不動産ID」とは何なのか?
「不動産ID」とは、不動産を識別・特定するための番号となります。不動産データを効率的に活用するためのもので、個々の不動産に対して、共通のルールに基づいて付与される。IDは英語のidentificationの略語となります。不動産IDの付与方法やその取り扱いについては、「不動産IDルールガイドライン」(国土交通省不動産・建設経済局、2022年3月)によってルールが示されています。不動産IDは、不動産登記簿に付された不動産番号(13桁)に基づき付与することとされています。また、取引の単位であるが不動産番号がない不動産(商業用建物等の各階、賃貸共同住宅の各部屋、区分所有建物の建物全体等)については、不動産番号に識別番号(4桁)を付加して特定できるようにします。不動産IDの利用については、 例えば、売買や賃貸の仲介等における物件情報、不動産の性能や管理に関する情報、都市計画やハザードマップ等での表示情報などと結び付けて活用できるとされており、一方で、不動産に関する情報は、プライバシーに属するもの(個人情報)を含む場合が多いことから、個人情報や内部情報が許諾なく流出しないように注意しなければなりません。
■「不動産ID」の実証実験が2024年12月よりスタート!
2024年12月に東京都港区や杉並区、大阪市、札幌市など約20自治体で民間企業が参加する実証事業を始めることなりました。日本郵便が持つ郵便受けの所在地情報をもとに割り振った番号のデータベースを、国土交通省が不動産IDとひもづけしてビジネスに活用できるようにします。実証では企業や団体に不動産IDと住所を提供し、ビジネスに活用できそうか効果を確かめ、宅配現場において住所ではなく番号を使って実際に配れるかや、作業効率が高まるかなどを確認してもらうことになっています。損害保険会社では番号を使って保険の対象となる住所を照合する作業時間を短縮できるかなどを見極めます。国土交通省はこの結果を踏まえて、2027年度にもIDの一般への公開をめざす。17ケタより短くすることも検討されているようです。
■「不動産ID」は不動産業界だけのメリットではありません!
国土交通省は住所を数字で表現することで、宅配や郵送の場面での手間を省けると考えています。宅配業者が窓口で荷物を受けつけた際に、データベースを活用して記載された住所を番号に置き換え、その後は送付先に届けるまで住所を番号で管理するといったものです。データベースで住所と番号を突き合わせる時点でまず住所が実在するかどうかが分かり、宅配業者の営業所間での確認作業を減らせます。住所の誤読や送り先の建物の間違いなど誤配を少なくできる効果もあるようです。今後、増える可能性がある外国人労働者にとっても、漢字やかなが交じった表記より数字だけのほうが理解しやすいものとなります。
物流大手のヤマト運輸によると、現状は住所の確認作業に全国で月におよそ4万8000時間をかけているようです。膨大な時間が確認作業にあてられている計算となります。地図の座標データと番号を連携することで、ドローンやロボットによる自動運送の精度を高められる可能性もあり、番号の導入によって企業と行政との間のやり取りがスムーズになる効果も期待されています。災害発生時に被災した住居などの保険金を支給する際には、保険会社と自治体のデータ間で住所の表記が異なっているために手続きに時間がかかる場合があります。保険金の支給には建物の被害状況を保険会社と自治体が確認して情報を共有する必要があります。住所を数字で表記することでデータ連携をスムーズにできるようになります。
日本の住所は表記の方法が複数あり、情報共有の妨げになっています。「1丁目2番3号」と「1-2-3」が併存し、同じ数字でも全角と半角が異なるものとして認識されることがあります。郵便の住所と登記上の地番で表記が異なることも情報共有の障害になっています。いずれにせよ、様々な業界で生産性向上の動きが叫ばれ、不動産業界においては「不動産ID」を活用した作業効率化が一気に進むことを願っています。今後もこの「不動産ID」の動きに注目していきたいと思います。
法人営業部 犬木 裕