相続税は「一部の富裕層だけが払う税金」という時代は終わりました。
2025年度の相続税収は3.6兆円台と過去最高を更新する見通しで、2013年度と比べると実に2.3倍に増加しています。
特に注目すべきは、相続税が発生する割合の変化です。
2023年度には亡くなった方の9.9%、つまり10人に1人が相続税の課税対象となっています。
2013年度の4.3%から倍増しており、もはや相続税は「ごく普通の家庭」にも関係する税金となっているのです。
この背景には、2015年の税制改正による基礎控除の大幅縮小があります。
改正前は「5000万円+法定相続人1人あたり1000万円」だった基礎控除が、「3000万円+法定相続人1人あたり600万円」へと4割も引き下げられました。
■ 都心の不動産所有者が直面する深刻な問題
都心に小さな自宅兼貸しビルを所有する男性の事例は、まさに現代の相続税問題を象徴しています。
10年前に母親が亡くなった際は、法定相続人が3人いたため基礎控除は8000万円(5000万円+1000万円×3人)となり、相続税の負担はゼロでした。
当時の路線価も1平方メートルあたり84万円と比較的低い水準だったのです。
ところが現在、状況は一変しました。
基礎控除は3600万円(3000万円+600万円×1人)に減少し、地価上昇により路線価は1平方メートルあたり147万円と75%も上昇。
さらに少子化の影響で法定相続人は子ども1人のみとなり、不動産評価額は1億2000万円を超えています。
その結果、子どもには約2000万円もの相続税が発生する見込みです。
親の世代では相続税ゼロだったのに、自分の代では巨額の税負担が生じるというのが、今の相続税を取り巻く厳しい現実なのです。
■ なぜ今、生前売却を検討すべきなのか?!
このような状況下で、相続発生前の生前売却が注目されています。
その理由は明確です。
第一に、不動産の評価額上昇リスクを回避できます。
都市部を中心に地価は上昇傾向にあり、株価も堅調に推移しています。
不動産を所有し続ける限り、評価額の上昇とともに相続税の負担も膨らんでいきます。
生前に売却して現金化しておけば、評価額の変動リスクから解放されます。
第二に、計画的な資産の組み替えが可能になります。
売却して得た現金を、相続税の納税資金として確保したり、生前贈与の原資として活用したりすることができます。
不動産のまま保有していると、相続発生時に納税資金が不足し、子どもたちが物件を急いで売却せざるを得ない事態も起こりえます。
第三に、家族間のトラブルを未然に防げます。
不動産は分割が難しく、相続人が複数いる場合に争いの種になりがちです。
生前に売却して現金化しておけば、公平な分配が容易になります。
■ 不動産の生前売却の具体的なメリット
生前売却には、相続税対策以外にも様々なメリットがあります。納税資金の確保が最大のメリットです。
相続財産の内訳を見ると、現預金と有価証券を合わせた金融資産が5割を超えるまでになっていますが、それでも不動産の占める割合は依然として大きいのが実情です。
不動産を相続しても、相続税は現金で納める必要があります。
売却によって現金を確保しておけば、子どもたちが納税に困ることはありません。
生前贈与の活用も重要な戦略です。売却で得た資金を使って、毎年110万円の非課税枠内で子どもや孫に贈与していけば、確実に相続財産を減らすことができます。
時間をかけて計画的に贈与を実行することで、大きな節税効果が期待できます。
維持管理の負担からの解放も見逃せません。
高齢になると、不動産の維持管理は大きな負担となります。
賃貸物件であれば入居者対応や修繕の手配、空き家であれば定期的な管理が必要です。
売却すればこうした負担から解放され、穏やかな老後を過ごせます。
■ 少子化が生む「一人っ子相続」の重圧
少子化の進行により、相続人の数が減少していることも深刻な問題です。
兄弟姉妹が多かった親世代に比べ、現代は一人っ子や二人兄弟が一般的です。
法定相続人が減れば基礎控除額も減少します。
先の事例のように、3人から1人になれば基礎控除は8000万円から3600万円へと半分以下に減ってしまいます。
さらに、相続人が少ないということは、一人あたりの相続額が増えるということです。
同じ1億円の遺産でも、3人で分ければ一人あたり約3300万円ですが、1人で相続すれば1億円全額が対象となり、適用される税率も高くなります。
相続税は累進課税のため、金額が大きくなるほど税率が上がる仕組みだからです。
このため、一人っ子や少数の相続人に巨額の税負担が集中するケースが増えています。
生前に資産を減らしておくことは、子どもたちの負担を軽減する親心とも言えるでしょう。
■ 相続発生前の売却のタイミングと注意点
生前売却を検討する際は、タイミングが重要です。
不動産市場が好調な時期に売却すれば、より高い価格で売却できる可能性があります。
特に都市部の地価が上昇傾向にある今は、検討に値する時期と言えます。
ただし、売却には譲渡所得税がかかることを忘れてはいけません。
所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として税率は約20%、5年以下の短期譲渡所得なら約39%の税率が適用されます。
また、居住用財産であれば3000万円の特別控除が受けられる場合もあります。
売却のタイミングは、これらの税金も考慮しながら、専門家と相談して決めることが賢明です。
■ 子どもたちの未来のために今できること
相続税の課税対象は確実に広がっており、「うちには関係ない」と思っていた家庭にも影響が及んでいます。
基礎控除の縮小、地価の上昇、少子化による相続人の減少――これらの要因が重なり、多くの家庭で相続税の負担が重くなっています。
大切な財産を次世代に円滑に引き継ぐためには、早めの対策が不可欠です。
生前売却は、納税資金の確保、計画的な資産の組み替え、家族間トラブルの回避など、多くのメリットをもたらします。
「親の世代は払わなかったのに、なぜ自分たちが」という子どもたちの戸惑いと負担を減らすためにも、元気なうちに、冷静な判断ができるうちに、生前売却という選択肢を真剣に検討してみてはいかがでしょうか。
相続は必ず訪れます。その時に慌てるのではなく、今から準備を始めることが、家族の未来を守る最善の選択となるはずです。今後の参考にお役立てください。
法人営業部 犬木 裕











