今年も東日本大震災の日がやってきました。
木造住宅の耐震化の取り組みに携わって長いのですが、一向に進まない家屋の耐震化に己の無力さと、次の災害に対する焦りを再認識する大切な日です。
今回は旧耐震をテーマにしたいと思います。
最近信じられない風潮が蔓延しつつあります。
それは、旧耐震木造アパートを購入して、副業としてサラリーマン大家をやろうとする動きです。
賃貸に出す物件なので、当然イニシャルコストは低ければ低いほど良いとされます。
中にはリフォームをけちってDIYで見た目だけ良くするような事例も紹介されていたりします。
部屋を貸すということは、たとえ個人であっても事業主という扱いです。
建物に対する責任は所有者である大家にありますから、地震などの災害時には当然ながらその責任が問われることになります。
投資用マンションの不正融資が発覚した時のように「そんなの知らなかった」「聞いていなかった」では済まされません。
昭和56年6月に建築基準法が改正され、主に建物の強さに関する規定が大幅に見直されました。
国は昭和56年5月以前の建物を既存不適格住宅と位置づけ、早急な対策が必要であると位置づけています。
自治体による耐震診断や耐震改修に対する補助制度が用意されるなど、国策として旧耐震物件の耐震化に取り組んでいるのです。
不動産の売買は耐震化を行うチャンスです。
改修可能な物件は、オーナーが変わるタイミングで適切なリフォームが実施されることが期待されているのです。
しかし前述のように賃貸を目的とする場合、耐震改修工事は大きな負担でしかありません。
耐震性が確保されていない住宅の売買を禁じるような法律もないですし、耐震診断すら義務化できない状況です。
何でもかんでもがちがちに考えましょうというつもりはないのですが、こと耐震については、ルールにないからいいじゃないか、という風潮に恐怖を感じます。
こういった判断をする副業オーナーの皆さんは、地震災害に見舞われたら、己の人生を破壊してしまうリスクを認識されていません。
所有しているアパートが被災して、賃借人が被災してしまった場合、天災だから致し方ないと被災した賃借人やそのご家族は納得されるでしょうか。
最低限の耐震対策も講じていない責任が、前例がないからと言って問われないと思うのでしょうか。
先ほど申し上げた通り、国や自治体は補助金を出してまで耐震化の促進に取り組んでいます。
もちろん自己負担も多く、経済的な理由から十分な対策が取れないこともあるでしょう。
だからと言って、耐震診断すら実施しない、耐震性が確保されていない危険な状態であることを賃借人に伝えることすらしていないオーナーが、天災だから致し方ないと判断されるとは思えません。
実は阪神淡路大震災クラスの都市型の直下地震は発生しておらず、賃借人がオーナーを訴えるような事案がないだけなのです。
首都圏のみならず、関西圏、中部圏でも大きな地震が懸念されています。
こういった都市部が被災した場合、それでも阪神淡路大震災の時のような「天災だから致し方」と司法が判断することを期待することは、事業主として甘すぎる判断だと言わざるを得ません。
木造アパートを事例に出しましたが、旧耐震のマンションも同じです。
同じエリアで格安だからと言って気軽に手を出す消費者がいるのですが、旧耐震マンションも一度地震被害に見舞われると、その財産を一瞬で失うリスクを抱える買い物になります。
旧耐震の物件は素人が簡単に手を出せるようなものではないのです。
改修コストに予算が割けない方は、最低でも新耐震の物件を選択するべきなのです。
新型コロナの影響で、格安物件として旧耐震案件を勧める声がちらほら聞こえてきます。
古い物件を検討する人は、もし、万が一被災してしまったらどうなるかを考えて、そのリスクを十分に考慮されることを強く推奨します。
大きな地震災害は時間が経つとその記憶が薄れていきます。
せめて過去に大きな災害が発生した日だけでもいいので、当時の被害状況を思い出して、地震の恐ろしさを正しく理解したいものです。