中古木造戸建てを検討する際に一般の方が不安に感じる要素として住宅性能が挙げられます。
新築に比べると安く購入できるものの、中古住宅なので中古だから致し方ない部分もあり、ある程度のリスクは許容するものの、完全に自己責任と言われてしまうと、戸惑ってしまう気持ちもわかります。
今回は中古木造戸建てを検討する上で知っておきたいことについてご説明いたします。
■住宅性能を区分する
住宅性能と一口に言っても様々な分野があります。
国が定めた住宅性能表示制度では、10分野の基準があります。
1 構造の安定に関すること
2 劣化の軽減に関すること
3 温熱環境に関すること
4 光・視環境に関すること
5 高齢者等への配慮に関すること
6 火災時の安全に関すること
7 維持管理・更新への配慮に関すること
8 空気環境に関すること
9 音環境に関すること
10 防犯に関すること
最近は省エネ性能とも言われる「3 温熱環境に関すること」が注目されていますが、この中で最も優先度が高いのは「1 構造の安定に関すること」です。
また、中古住宅を購入すると後から不具合が次々と見つかってリフォームにお金がかかると言われる(新築に携わる事業者がよく言いますね)のは「2 劣化の軽減に関すること」が関係してきます。
その他も気になる項目は多いのですが、基本的に新築向けに作られた基準であり、中古住宅の場合、新築時にそのように設計されていれば良いのですが、そうでない場合は後付けで基準を満たすことが難しいものも多いので、意識し過ぎるのも現実的とは言えません。
この記事では主に「1 構造の安定に関すること」つまり「耐震性」と、「2 劣化の軽減に関すること」つまり「劣化基準」について触れたいと思います。
※厳密に言うと「1 構造の安定に関すること」は耐震だけではないのですが、詳細に触れてもわかりにくいので、「耐震性」についてのみ触れます。
■築年数で区分する
物件探しが始まると、築年数が気になってきます。
劣化の度合いは皆さまの認識とそれほど違いはなく、分かりやすく表現すると、「古ければ古いほど劣化している可能性が高い」となります。
ただ、これではあまり意味がないので、ここでは築年数が古ければ古いほど改修費用が高額になると整理しておきます。
続いて耐震ですが、こちらは建築年月で明確に区分ができます。
1981年5月以前…旧耐震
1981年6月以降…新耐震
2000年6月以降…現在の基準
分かりにくいのでご説明します。
耐震性についてはまず「新耐震」「旧耐震」という区分があります。
1981年6月の建築基準法改正では、建物の強さに関する要素のうち影響が大きな「壁の強さ」に関する基準が改正されましたので、「新耐震」「旧耐震」では建物の強さに大きな違いがあります。
余談ですが、国は「旧耐震」の物件を既存不適格住宅と位置付け、何かしらの改修工事が必要な建物という取り扱いになっています。
国や自治体による耐震診断・耐震改修の補助制度などが運用されているのはこのためです。
話を戻します。
「新耐震」なら大丈夫かと言われるとNOと言わざるを得ません。
1995年の阪神淡路大震災や2016年の熊本地震などの大きな地震で、新耐震で建築された建物でも被害が見られるからです。
阪神淡路大震災の教訓を受け2000年6月に建築基準法が改正され、この基準が現行基準となります。
2000年6月移行の基準に一般的な名称が付けられていない上に、国が1981年6月~2000年5月までの建物を否定しているわけではないので(既存不適格住宅ではない)、2000年5月以前の建物でも新耐震だから大丈夫と説明する事業者が多いので注意が必要です。
これから住宅購入をされる皆さんは、下記のように整理しておくと良いでしょう。
1981年5月以前…基本的には手を出さない。耐震・劣化改修に非常にコストがかかる。
1981年6月~2000年5月…購入に当たって耐震診断・耐震改修を行う前提で資金計画を立てる。
2000年6月以降…一旦耐震は問題ないと判断する(※)。築年で劣化が懸念されるので劣化の調査を行う。
※厳密に言うとリフォームで壁を撤去していたりするケースがあります。
■住宅購入費用を抑えたい方は築年数はそこそこで程度の良い物件を探す
売り物件は基本的に築年数が古くなればなるほど価格が安くなります。
そのため上記でご説明した「築年数が古いほど改修工事にお金がかかる」ことを想定せずに物件探しを始めてしまい、気になる物件は見つかったものの、いざリフォームの相談をしてみると思った以上にお金がかかることが判明し、購入を断念するケースが多く見られます。
中古一戸建てを検討する中で、住宅購入費用を抑えることを重視したい場合は、改修費用があまりかからない物件を探すことが重要となります。
改修費用が高額になるかどうか(劣化が多いか)は、ポータルサイトの広告情報には掲載されないので、気になる物件は積極的に内見を行っていくことが大切です。
一般的な不動産仲介会社は住宅性能に詳しくない会社が多いので、建築・リフォーム業を行っている不動産会社に相談した方がより安心できると思います。
理由は後述しますが、事業者に相談する際に「既存住宅売買瑕疵保険に加入したい」という条件を伝えておくと、劣化性能を意識して物件提案してくれるので、瑕疵保険の存在を忘れないようにしてください。
■既存住宅売買瑕疵保険は消費者保護の制度です
既存住宅売買瑕疵保険は、構造躯体と雨水の浸入に対する、最大1000万円・最長5年間の保険制度です。
瑕疵保険に加入するには瑕疵保険法人が実施する建物検査に合格する必要があります。
この時に行われる建物検査が主に劣化を対象とした検査となります。
先ほど「既存住宅売買瑕疵保険に加入したい」という条件を伝えましょうと記載したのは、この条件を伝えておくと、雨漏れなどの劣化がある場合に優先して情報を伝えてくれるようになるからです。
しかし、瑕疵保険の検査に合格するくらい程度の良い物件を探すのは困難と言わざるを得ません。
中古住宅なので何かしら不具合があるのは当然だからです。
そこで考え方を改めます。
中古住宅は何かしら不具合があって当たり前である→中古住宅は何かしらの改修工事を行って購入する、という考え方です。
この時に行う工事を既存住宅売買瑕疵保険の基準に照らし合わせて実施すれば、劣化性能がある程度担保された状態での物件購入が達成できることとなります。
また、既存住宅売買瑕疵保険は旧耐震の物件は耐震改修しないと加入できないため、劣化だけでなく耐震性という意味でも最低限の性能確認ができる仕組みとなります。
■中古木造戸建ては住宅性能に詳しい事業者を頼りましょう
中古木造戸建てを検討する上で知っておきたいことを整理します。
・耐震性を重視する
・劣化の状況を確認する
・できれば2000年6月以降、最低でも1981年6月以降の物件を対象とする
・物件探しの段階で既存住宅売買瑕疵保険に加入することを条件として伝える
・住宅購入の過程で建築士による建物検査を実施する
「建築年月を意識すること」「瑕疵保険について業者に伝えること」の2点を押さえておけば大きく失敗することはあまりないと思いますし、誤った判断に誘導されることもなくなりますのでぜひ参考にしてください。
最後に中古木造戸建ての取引を成功させるコツは「リフォーム費用を早めに把握すること」です。
予めリフォーム会社を見つけておいて一緒に物件探しや内見を行うのでも良いのですが、途中でご説明した通り、内見の件数が多くなってしまいがちなので、ある程度絞り込んでから相談して欲しいというのがリフォーム会社の本音となります。
このように書くと、リフォームと不動産仲介の両方を行っている事業者に相談するのが良いように思えますが、中古取引の際のリフォームは、最低でも建築士事務所登録を行っている事業者に頼まないと、検査や保険の部分で全く役に立たないことが起こり得ます。
中古+リフォームに適した事業者か見極めるという意味でも、文中でご紹介した「既存住宅売買瑕疵保険に加入することを条件として伝える」が生きてきます。
「自社で対応できるから大丈夫です」「提携事業者で提供できるので安心してください」という反応だったらひとまず安心しても大丈夫そうです。
反対に制度のことをよくわかっていなかったり、瑕疵保険を利用しない方に誘導しようとする事業者は怪しいと判断できます。
このように中古木造戸建てを検討する上で必要な情報を集めるのに既存住宅売買瑕疵保険が非常に便利です。
保険の内容だけでなく、加入までのプロセスも含めて、安心安全な取引を実現するための消費者保護の制度設計になっているので、積極的に活用しましょう。