我が国における標準的な「家」の概念が変わりつつあります。
少子高齢化による人口問題が原因なのですが、端的に言うと、結婚する人も子供を産む人も減り続けているということになります。
これまでは住宅購入と聞くと、3LDK~4LDKを思い浮かべる人が多かったと思いますが、全体で見ると単身世帯の増加が著しく、家を買うならファミリータイプという考え方は、もしかすると令和時代にはそぐわないかもしれません。
■子供用の個室は本当に必要なのか?をしっかり検討する
住宅購入=ファミリータイプという思考は、住宅購入の目的に子育てが含まれるために一般化しました。
多感な時期を考慮して、子供に独立したスペースを供給したい、という親の想いと、子供の人数は昭和の頃のような大家族ではなく、子供がいる世帯でも人数が少ない世帯も多く、子供に個室を与えることが容易になっているという背景もあると思います。
実際にポータルサイトなどをご覧いただくと明らかですが、ファミリータイプと呼ばれる物件は3LDK~4LDKであることがほとんどで、それより部屋数が多い物件はイレギュラーな存在になっています。(数も少ないです)
こういうことを書くと、購入するより賃貸の方が良いと主張する人達は、子供が独立するまでは賃貸にしておいて、家を買いたいならその後に夫婦が過ごす家を買えばいい、と仰る意見がありますが、あまり現実的な主張ではないと言えます。
第一に賃貸物件の主流はマンションやアパートであり、増えてきてはいるものの、一戸建ての賃貸は、簡単に物件が見つかるという状況にはなっていません。つまり、子供がいる時だけ賃貸にするというのは、思うよりも簡単な選択ではないということになります。
続いてローンの問題があります。
住宅ローンには完済年齢が定められているので、住宅購入時期が遅れれば遅れるほど、借り入れできる金額が少なくなってしまい、また、月々の返済額は大きくなってしまいます。
子供が独立する時まで待つというのは、住宅ローンの面では不利な選択をするということになります。
子育て時期に家を買って、子供が独立したら売却して、住み替えれば良いというのが、賃貸よりも購入の方が良いと主張する人(私も含め)の意見なのですが、ここで問題になるのが冒頭の記載です。
これまではまだファミリータイプに需要がありましたが、これからの世の中では売りたいと思った時にファミリータイプの物件にどれくらい需要があるか?という問題が生じます。
必要な部屋の数は、居住する人数+1くらいが限度で、それ以上は過剰な(贅沢な)選択と言えます。
例えば、単身者の場合、ワンルームが最低限の間取りで、一部屋余分にあれば(1LDK)寝室などで活用できるものの、リビング以外に二部屋あっても(2LDK)持て余してしまいます。
ご夫婦二人の場合、ワンルームでは手狭で、リビングに加えてご夫婦の寝室くらいは欲しいところです(1LDK)。追加でもう一部屋あると(2LDK)、夫婦を別室にしたり、来客やテレワーク用のスペースとして活用できそうですが、ご夫婦二人で3LDK以上は過剰スペックです。
ファミリータイプの物件は子供がいる世帯にしか訴求しない物件であり、これからの人口動態を見ると、安易は判断は危険だとご理解いただけると思います。
ここでこの章のタイトルですが、「本当に子供に個室は必要なのか?」という疑問に至ります。
子供に個室を与えてあげたい親心を叶えるには、人口減少で子育て世帯が減った将来においても、ファミリータイプの需要が見込める、そんなエリア選択をシビアに判断しなければならなくなっています。
老後に売りたくても売れず、子供用の個室スペースを持て余す家に住み続けなければならない…どこかで目にした状況だとは思いませんか?
皆さんの親世代が住む、所謂「実家」という存在がまさにそれに当てはまります。
■3階建て住宅の限界
3階建て住宅は限られた土地で部屋数(面積)を確保する対策です。
縦に伸びれば、床面積を容易に増やすことができるので、現在も数多く供給されています。
3階建て住宅は土地価格が高いエリアや住宅が足りていない状況での救世主でした。
3階建て住宅を有効活用するには、当然ながら3階までの昇り降りが必要です。
高齢者にとってこの昇り降りがネックになるので、元気なうちはいいのですが、歳を取ってからの3階建ては負担が大きな住宅になってしまいます。
少なくとも高齢世帯にはまったく訴求しない住宅と言えます。
それでも立地面でメリットが大きければ、不都合が発生した際には売却して住み替えるという選択ができるのですが、皆さんが今目にしている3階建て物件は、魅力ある立地と言えるでしょうか?もともと広めの庭がある物件を小分けにしたような物件ではないでしょうか。
子育て世帯が減ることは確定なので、皆さんが購入した家を売らなければならない状況が発生する時期は、今よりもっとシビアに判断される状況です。
同じ4LDKだとしても、2階建てと3階建てでは判断が変わります。
1フロア当たりの面積が異なるからです。
構造をいじるリフォームなので少しお金がかかりますが、小分けになった間仕切りを撤去して大きな空間として利用する、というのはリフォームではよくある事例です。
しかし3階建て住宅では、間取り変更によるメリットは少なく、そこにお金をかけるよりそのままでの活用方法を検討した方が現実的だったりします。
※2階建て住宅で、2階に3部屋ある間取りの場合、3部屋を1部屋にリフォームすれば別の活用が検討できますが(6帖3部屋を18帖にすれば別の利用価値が生まれる)、3階建ての場合は3階部分に広いスペースを設けても、1フロア当たりの面積はそれほど大きくなく、また、3階であることには変わりないので、魅力あるソリューションにはなりにくいです。
この3階建ての限界に関する議論は今に始まったことではありません。
高齢者の家庭内事故の内訳を見ても、3階建て住宅が高齢者に優しくないのは明らかです。
もし戸建ての検討で3階建てが視野に入っている場合は、これまでよりも難しい選択になるということを頭の片隅に置いておいた方が良いでしょう。
少なくとも終の棲家を3階建てというのはかなり無理があることはご理解いただけると思います。
■子育て世帯が家を買うのは少しだけ難しくなっています
今回は部屋の数に焦点を置いてご説明していますが、ファミリータイプの物件が難しいという問題は、意外な社会問題から顕在化していきます。
それは後期高齢期における介護と相続です。
高齢者の資金問題がニュースになったことがありますが、QOLを維持しつつ後期高齢期を過ごすにはまとまった資産が必要です。
うまく資産形成出来た方は良いのですが、そうでない方は昨今の物価上昇も合わさって、家計が苦しいというニュースも多く報道されています。
後期高齢期、特に介護にまとまった資金が必要になった場合に、持ち家の方は住宅を売却して資金とすることが選択肢として挙げられますが、売ろうにも売れない家だった場合、子供世代がかなり苦労することになります。
これから社会問題として顕在化するのは、所謂団塊の世代と呼ばれた時期の方々です。(数が多いので問題も大きくなります)
この世代の方が家を買った時代は、住宅購入=新築の時代で、郊外の庭付き一戸建てというマイホームのイメージが定着していた時代です。
この郊外のマイホームが曲者で、とにかく今の時代にマッチしません。
これから顕在化する介護や相続の問題を経て、「人口が維持できない街には家を買ってはいけない」という教訓を得る結果になると思います。
住宅購入は将来の夢を描く楽しい作業です。
今回の記事のような資産価値の面を気にすると、人口問題は避けられない事実なので、どうしてもシビアな検討が必要になり、積極的に検討したいと思える話題ではありません。
資産価値と聞くと、「価値が上がる」とか「儲かります」といった印象を受けるかもしれませんが、私たちが一貫してお伝えしているのは、長い人生における資産防衛としての「価値が下がりにくい家の買い方」です。
検討している物件やエリアにはどんなリスクが潜んでいるのか?限られた予算でどういった物件を選択すればよいのか?買って終わりではなく、ライフプランでどのタイミングになったら買い替えを検討した方が良いのか?など、他の不動産会社では聞けない内容についてじっくりご提案いたします。
もし今回の記事を読んで、少しでも気になった方がいらっしゃいましたら、まずはお気軽にご相談ください。