持ち家の売却後に賃貸で住み続ける「リースバック」を巡り、高齢者が巻き込まれる消費者トラブルが急増しているようです。まとまった資金を得られる一方、契約内容を十分に理解していなかったために退去を余儀なくされるケースも多く、国民生活センターはメリットとデメリットを慎重に検討するよう呼びかけています。そこで今回は不動産の「リースバック」について解説をしたいと思います。
■不動産「リースバック」の基本的な仕組みについて
リースバックとは自宅を不動産会社等に売却し、その後も賃貸契約(通常は定期借家契約)を結んで住み続けるサービスのことです。一時的にまとまった資金を得たいが、引っ越しは避けたいという人向けの不動産サービスです。多くの場合、一定期間後に買い戻せるオプションが付くこともありますが、不動産知識の乏しい消費者は理解していない事も多いようです。
■不動産「リースバック」のよくあるトラブルのパターン
1. 「ずっと住める」と思い込んでいたが、契約終了で退去を求められるというものです。リースバックは、「定期借家契約」が主流となっており、契約満了時、貸主(買主)が更新を拒否すれば退去せざるを得ません。
トラブル例:高齢者が「死ぬまで住める」と信じて契約→2年後に退去通告→行き場がない。
2. 売却価格が相場よりも大幅に安い
リースバックは、「住み続ける」制約があるため、流通価格の6~7割となっており、一般的に安い価格で取引されます。
トラブル例:築15年の家が市場価格3,000万円なのに、2,000万円でしか買い取ってもらえなかった。
3. 賃料が高額で生活が苦しくなる
リースバック後の賃料は、市場の家賃相場+リースバック特有のプレミアムが乗ることが多く、家計を圧迫することも懸念材料となります。
トラブル例:月額10万円のローン返済から、月額15万円の賃料に→年金で生活が成り立たない。
4. 買い戻しが想定より困難
買戻しオプションがあっても、「時価+利息+手数料」で再取得には高額資金が必要となる。また、高齢となった場合は住宅ローンが組めなくなるといったケースも多い。
トラブル例:買戻し価格が売却価格より500万円高く設定され、買戻し不能に。
5. 悪質な勧誘・不十分な説明
営業担当が「終身住めます」「絶対買い戻せます」などと説明するが、契約書には記載されていないケースが多いようです。
トラブル例:言われていた内容と違うと抗議しても「契約書にそう書いてあります」で終わってしまう。
■不動産「リースバック」、 なぜトラブルが増えているのか?(社会的背景)
年金だけでは生活が苦しい高齢者が増加し、「持ち家はあるが現金がない」層がターゲットになりやすい。また、収入減で住宅ローンが払えず、リースバックで資金確保を図る世帯が増加しています。
そもそもリースバック自体は法的にグレーな部分が多く、不動産取引としては歴史が浅いため、明確な規制が少ないといったことも要因です。高齢者・低所得者は契約の内容やリスクを正確に理解できないまま進めてしまうケースもあります。
■不動産の「リースバック」、 法的な観点・注意点
不動産の「リースバック」で問題視されるケースで重要なポイントは「定期借家契約」というないようです。
定期借家契約とは、正式名称を定期建物賃貸借契約といい、契約期間があらかじめ決められている賃貸借契約のことです。契約の更新がないため、契約期間が満了すると借主は退去しなくてはなりません。ただし、貸主と借主の双方が合意すれば、期間満了後の再契約は可能となります。
定期借家契約の場合、貸主側の都合で契約期間が定められるため、普通借家契約に比べると割安な家賃で設定されることが多いです。貸主側は定めた期間で借主に退去してもらえるため、「一時的に不在となる物件を賃貸に出す」「現在空き家の実家を自分が住むまで賃貸に出す」といった場面での活用ができますが、この契約手法を利用して「リースバック」の仕組みができています。
宅建業法では、不動産業者には重要事項説明義務がありますが、細かなリースバックの条件は「任意契約」の範囲に入りやすいため、実態とのズレが起きがちといわれています。また、国民生活センターへの相談者はすでに定年を迎えた70代以上の高齢者が目立っているようです。
また、2022年国交省は「リースバック」のトラブル防止のために適切な活用法をまとめたガイドラインを作成しています。
ぜひ、今後の参考にお役立てください。
法人営業部 犬木 裕