日本は地震大国です。
大きな地震被害に見舞われるたびに構造性能が検証され、建築基準法がアップデートされて来ました。
現行の基準に比べると不足する性能を補う工事が耐震改修工事と呼ばれるリフォーム工事です。
住宅の耐震化は国交省が掲げる住宅政策の一つでもあるので、耐震診断や耐震改修工事に対する補助制度が設けられています。
今回は中古戸建てを購入する際の耐震の補助制度についてご説明します。
制度のルールは全国共通ではありません
耐震性に関係する補助制度は様々ありますが、ここでは自治体が運営する耐震診断・耐震改修の補助制度についてご紹介します。
制度は自治体によって運営ルールが異なりますが、多くの場合、耐震診断や耐震改修工事にかかる費用の一部を自治体が補助するという制度となります。
耐震改修工事だと自己負担率1/3、補助上限50万円~100万円といったようにまとまった補助が得られるケースが多いので、耐震改修工事をお考えの方はぜひ活用したい制度になります。
原則として持ち家に対する補助制度
自治体の耐震に対する補助制度は15年くらい前から運用されている比較的歴史の古い補助制度と言えます。
耐震の制度が策定された時期は住宅購入は新築の取引が中心で、中古住宅の取引は一般的ではありませんでした。
従って、自治体の耐震の補助制度は持ち家に対する制度という位置づけとなっているものが多く、所有の要件や居住の要件が設けられています。
所有の要件や居住の要件が設けられており、中古住宅取引の特例などが設けられていない場合は、中古住宅の取引が完了しないと補助制度の申請ができないこととなり、取引スケジュールによっては補助制度を利用したくてもできないケースが懸念されます。
耐震改修工事を検討する場合は必ず役所へ相談を
冒頭に記載したように補助制度の運用ルールは自治体によって異なります。
従って補助制度に関する正確な判断を得るには役所へ相談する必要があります。
中古戸建てを検討していて、耐震改修工事をお考えの場合は、早めのタイミングで役所へ相談した方が良いです。
補助制度には様々な要件が設けられています。
築年数の要件はほとんどの制度で設けられていますが、旧耐震しか対象にしていない自治体と平成12年5月以前までは利用できる自治体とが存在していて、正確な情報を確認した方が良いです。
※旧耐震の建物は既存不適格住宅という位置づけになるため、旧耐震しか対象にしていない自治体が多いです。
中には補助制度が利用できるエリアを設定している自治体もあります。
最終的に補助制度を利用できるかどうか、申請を受け付けるのは自治体になりますので、補助制度のことは役所に確認するのが一番です。
手続きの流れを必ず確認する
耐震改修を行うまでには、
1:耐震診断
2:改修設計
3:改修工事
の大きく3つのプロセスがあります。
耐震診断は「簡易診断」と「精密診断」に分かれて運用されている自治体があり、
・自治体の耐震診断の補助を受けなくても耐震改修の補助だけ利用できる
・「簡易診断」もしくは「精密診断」のどちらか一方だけで良い
・「簡易診断」→「精密診断」の順で耐震診断を行わなければならない
のいずれかの手続きとなります。
また、ほとんどの制度がまず申請を行って受理されてからしか診断や工事を実施できません。
ポイント還元型の補助制度のように、先に工事を実施しておいて、後から精算という形式の制度ではないので注意が必要です。
更に診断や工事を実施する事業者が登録制度になっている自治体も多いです。
工事業者の要件が定められている自治体では、耐震の補助制度を利用できる工務店やリフォーム会社を選択しないと補助制度が利用できません。
取引スケジュールにも関係しますし、リフォーム会社選びにも影響するので、物件が決まってからではなく、築20年を超える中古戸建て住宅を検討する場合は、予め役所で手続き方法や補助制度の要件を確認した方が良いです。
住宅ローン減税との関係
中古住宅の取引で耐震関係だと住宅ローン減税のための耐震基準適合証明書が挙げられます。
せっかく耐震改修工事を実施するのですから、住宅ローン減税も利用できた方がいいですよね。
住宅ローン減税だけなら良いのですが、自治体の補助制度が絡むと要注意です。
住宅ローン減税と耐震の補助制度は別の制度で、連動していません。
相談や申請を行う窓口も異なります。
そもそも住宅ローン減税のための耐震基準適合証明書も自治体の補助制度も手続きは非常にややこしく、両方を実現するのは困難で、制度に精通した建築士に誘導してもらわないと失敗する恐れがあります。
住宅ローン減税と耐震の補助制度を両方使いたい場合に問題となるのが、所有や居住に関する要件です。
住宅ローン減税の手続きを行うために耐震基準適合証明書仮申請という手続きが必要になる場合があるのですが、この仮申請は所有権移転前に行います。
しかし所有や居住の要件がある場合は、所有権移転後にならないと申請できないことになり、両方を利用するというのが難しくなります。(こういった状況のための特例手続きが用意されている場合もありますので必ず役所に相談して判断を仰いでください)
更に居住の要件により、居住開始してからでないと補助制度の申請が行えない場合は、住宅ローン減税との併用はできなくなります。
所有権移転後に耐震基準適合証明書を発行する場合は、所有権移転後居住開始までに耐震改修工事を行って耐震基準適合証明書を発行する必要があるからです。
今回は自治体の耐震診断・耐震改修の補助制度を主に取り上げていますが、耐震改修工事に関する補助制度は他にもあります。
使えるものなら全部利用したいところですが、併用不可の制度もありますので注意が必要です。
それぞれの制度は独立して運用されているものであり、最終的には役所や国にたどり着きますが、制度が連動していることはほとんどなく、相談・申請窓口は制度ごとに設けられていると理解しておく必要があります。
役所に相談する時に確認すること
文字だけで説明しても、具体的にどうすればよいのかわからないと思いますので、自治体の補助制度を利用したい場合に役所へ確認した方が良いことを記載します。
1:これから中古住宅を購入して耐震改修工事を行うということをまず伝える
居住や所有の要件を確認するためです。
所有権が移転していない段階や住民票が申請住戸になっていない状態でも申請が可能かどうかを確認します。
ここで所有権が移ってからでないとだめ、とか、住んでからでないと申請できないと判断されると住宅ローン減税との併用が困難になります。※別途税務署や役所の租税課に相談します。
2:耐震改修工事を実施する工務店・リフォーム会社に要件があるか確認する
どの事業者でも良いという制度はほとんどありません。
リフォーム事業者選びに関係することなので、どういう基準で選べば良いのかを確認しておきます。
3:手続きの流れとスケジュール感を確認します
申請書の記載事項や添付書類を確認するだけでなく、おおよそのスケジュール感も確認しておきます。
・申請から耐震診断を実施するまでの期間
・耐震診断終了後、改修設計が提示されるまでのおおよその期間
・改修工事の申請から工事開始までの期間
・工事完了から補助金が実行されるまでの期間
4:本年度の予算
自治体の補助制度は無制限に実施しているのではなく、年度単位で補助金が受けられる件数が限られます。
多くの制度は単年度事業なので、5月くらいから申請受付開始で、12月中には工事完了してください、というようにいつでも利用できるものではありません。
また、予算が限られますので、夏を過ぎると本年度分の予算が終了して次年度を待たなければならないケースも考えられます。
せっかく相談に行くのですから、予算枠の空き状況も確認しておきましょう。
住宅ローン減税との併用を考える場合は所有権移転から半年以内に工事完了
住宅ローン減税には居住要件が定められていて、所有権移転から半年以内に居住開始しなければなりません。
所有権移転後でないと自治体の補助制度の申請ができない場合は、半年以内に工事完了できるスケジュールが組めるかどうかが重要となります。
上手く手続きを進めるためには制度に精通した建築士に相談すること
中古住宅購入時に自治体の補助制度を利用することが難しいことがご理解いただけたと思います。
しかしその難易度をぐっと下げる方法があります。
それは自治体の補助制度に精通した建築士に工事を頼むことです。
できれば住宅ローン減税のための耐震基準適合証明書にも詳しい方が良いです。
ご自身で都度手続きを事業者に依頼しなければならないのと、制度の申請をどんどん進めてくれる事業者とどちらが良いか一目瞭然ですね。
注意なのはその役割を宅建業者に求めてはいけないということです。
宅建業者は不動産取引のプロであり、耐震の補助制度は建築士の領分です。
従って、築20年以上の中古戸建てを買って、耐震改修工事を実施しようとお考えの場合は、物件探しの前に、制度に精通した信頼できる工務店・リフォーム会社を予め選んでおくことが重要です。
そして最も大切なのは、こういったややこしい手続きを相談したいのであれば、工務店・リフォーム会社をお金で選んではいけないということです。
行政手続きを円滑に進めるのも建築士の知識・スキルによるものです。信頼できる建築士は決して安くはないのです。
「最安」のリフォーム会社には建築士すら在籍していない場合が多いので、中古取引の際のリフォーム会社選びは慎重に行いたいところです。
以上、中古戸建てを購入する際の耐震の補助制度についての説明でした。
不動産取引が絡むと手続きが一気にややこしくなるのですが、中古戸建てとリフォームをセットにした取引に慣れている不動産会社も増えてきているので、契約間際ではなく、当初から利用したい制度については相談しておくことをお勧めします。