物価上昇や物件価格上昇などから、住宅購入の現実的な選択として中古住宅を検討する方が多いです。
しかし中古住宅なので経年による劣化や、前の住人の生活感などが気になり、中古住宅購入とあわせてリフォームを実施される方が多いです。
リフォームと聞くと、テレビで紹介されるような家屋全体をリニューアルするようなイメージを持たれる方が多いと思いますが、現実にはクロスの貼り換えや設備の入れ替えなど最小限のリフォームに留まるケースが多いです。
今回は中古+リフォームの問題点と購入手続きの進め方についてご説明いたします。
■中古+リフォームで消極的な選択しかできない理由
冒頭に申し上げたように、中古+リフォームといってもほとんどが「クロスの貼り換えなど最低限のリフォーム」「事業者によるリフォーム済み物件」「リフォームせずに現況のまま我慢する」といった消極的な選択になります。
中古住宅ということで物件価格を抑えた分、全面リフォームとはいかないものの、家族にあわせた間取り変更リフォームとか、天然素材などを多用したリフォーム、デザインや省エネなどに凝ったリフォームなどを検討したいところですが、多くの方が消極的な選択をしてしまうのには理由があります。
原因はリフォーム予算です。
今は多くの金融機関で物件代金だけでなくリフォーム費用もあわせて低金利の住宅ローンを組むことができる商品が用意されており、ちょっと贅沢かな?と思うようなリフォームであっても住宅ローンを利用する場合は、それほど大きな負担とならずに実現できます。
とはいえ、住宅ローンは年収などによって借り入れ可能な金額が決まりますので、物件代金に多くを費やしてしまうと、リフォーム予算が足りない、という状況がよく起こります。
思いっきりリフォームしたくて中古住宅を選んだものの、思うようなリフォームが実現できないのであれば本末転倒ですね。
こういった状況に陥るのは購入手続きの進め方が悪いことが原因となります。
■一般的な不動産取引の流れ
多くの方が住宅購入しようと考えた時に、まず不動産ポータルサイトなどで物件情報を見始めます。
良さそうな物件広告が見つかったら、広告掲載している不動産会社に問い合わせを行い、実際に物件を見学して、気に入ったら契約手続きとなります。
それではリフォームはどういう流れになるのでしょうか。
「購入する物件が決まっていないとリフォーム会社に相談できない」と考えている方が多いため、多くの場合、リフォームの手続きは購入する物件を決めた「買付申込」の後か、場合によっては不動産売買契約の後からスタートします。
不動産売買契約後、すぐに住宅ローンの正式審査を行わなければならないのですが、リフォーム費用を組み込みたい場合は、正式審査に当たってリフォーム工事内容を決定し、見積書などの資料を提出する必要があります。
一般的に行われている不動産取引とリフォームの手続きがマッチしておらず、住宅ローン以外で支払うことができる範囲でのリフォームに留まってしまうことが多いです。
「購入する物件が決まっていないとリフォーム会社に相談できない」というのが大きな間違いですので、まとまったリフォームを希望される方はご注意ください。
■リフォームもできる不動産会社なら良いのか?
それでは物件の相談と同時に不動産会社にリフォームの相談を行えば良いのでしょうか。
多くの不動産会社は、当然ながら不動産業が主となるので、リフォームを実施できるといっても小規模な工事になる場合が多いです。
特に中古戸建ての場合は、建物全体の性能も考慮しなければならないのですが、こういった住宅性能を含めたリフォームは、単なるリフォーム会社ではなく、建築士事務所登録を行っているリフォーム会社に依頼する必要があります。
もちろん建築士事務所登録を行っている不動産会社も存在しますし、建築士が在籍していないリフォーム会社も多いです。
中古+リフォームで失敗しないためには、最低限、建築士事務所登録を行っている、中古取引時のリフォームが得意なリフォーム会社を選択する必要があるのですが、一般の方でリフォーム会社の善し悪しを見分けるのは困難で、結果的に、不動産会社もしくは不動産会社がお勧めするリフォーム会社を選択するか、ネットなどで見つけたリフォーム会社に依頼することになりますが、購入する物件を決めてからでは手遅れの場合が多く、限られたリフォームしか行えないという状況に陥ってしまいます。
中古+リフォームの相談をしてリフォーム会社の話題になった時に、「信用できますか」「大丈夫ですか」と聞いても、事業者は「できます」としか回答しません。
そこで皆さんにおすすめのマジックワードをご紹介します。
「あなたの会社では既存住宅売買瑕疵保険をかけることができますか?」
この質問の回答がYESの場合、そのリフォーム会社は最低限の条件をクリアしていることになります。
■既存住宅売買瑕疵保険
既存住宅売買瑕疵保険とは中古住宅の購入にあたって、構造躯体と雨水の侵入に対して最長5年、最大1000万円の保証となる制度で、国が消費者保護を目的に制度設計した仕組みです。
新築の場合は、瑕疵保険の加入(新築は10年)もしくは供託が義務化されていますが、中古住宅の場合は任意となります。
瑕疵保険に加入するためには、瑕疵保険法人による検査に合格する必要がありますので、検査で一定基準の性能をクリアしていることが証明される(もしくは不具合箇所を修繕する)ことと、中古住宅でも保証が付くという点で、安心・安全な中古住宅取引を実現するには欠かせない制度です。
先ほど瑕疵保険をかけることができる事業者は最低限の条件をクリアしていると説明しましたが、瑕疵保険の手続きを行う事業者を制度では「検査会社」と言いますが、この検査会社登録を行う条件が建築士事務所であることだからです。
検査で指摘事項がある場合は修繕工事が必要なのですが、ここで修繕した内容も含めて保証するという仕組みから、修繕工事を行うリフォーム会社と検査会社が同一でなければならないとする保険法人もあるため、検査会社=リフォーム会社と認識しておくのが現実的です。
一定の条件をクリアしたリフォーム会社を選別できる、保険手続きで検査が必要なので最低限の性能を確保できる、中古住宅でも保証がつく、と、中古住宅を購入してリフォームすることをご検討の方にお勧めなのが既存住宅売買瑕疵保険という制度になります。
■瑕疵保険の検査基準はものさし
ここ最近話題になっているのが中古車販売事業者の不正問題です。消費者の認識が及ばないことをいいことに数々の不正を行ったとして非難の声が上がっています。
問題の根っこにあるのは「中古だから何か問題があって当たり前」という概念です。
中古住宅も同じです。
「中古住宅でも安心です」と口だけで説明されても納得できませんし、「新耐震だから」「築浅だから」と言われても、「中古だから何か問題があって当たり前」という前提での話となります。
瑕疵保険の検査は現況で問題がないことを証明するものではなく、「中古だから何か問題があって当たり前」という前提で、購入する物件の悪いところを見つけることが目的で、指摘箇所を修繕した結果、最長5年最大1000万円の安心が得られるという考え方になります。
もちろん瑕疵保険基準で全てを補えるわけではありません。
瑕疵保険の検査基準は主に住宅の劣化に関するものになりますので、リフォーム業界で曖昧だった建物の劣化性能を判断する目安になります。
リフォーム会社が「古い家だからこれくらい直しておいた方が良い」と説明するよりも「瑕疵保険に加入するにはこれくらいの修繕が必要」と提示された方が判断しやすいです。
また、瑕疵保険の制度は第3者である瑕疵保険法人が保険を付けるということにも意味があります。
検査で見落としがあった場合、リフォームに問題があった場合、通常であれば依頼者である皆さまが直接事業者に指摘し、改善を交渉する必要があります。
この消費者と事業者の直接のやり取りしかない構造が問題を更に悪化させる要因となります。
瑕疵保険の制度では、万が一の事故の場合、第3者である瑕疵保険法人という存在が機能します。事故の報告や保険金の請求は検査会社が瑕疵保険法人に行うのですが、事故が発覚した時に検査会社が倒産していた場合、住宅所有者が瑕疵保険法人に直接請求できるという仕組みもあります。
瑕疵保険に加入するというのは、住宅に対する保証だけでなく、信頼できるリフォーム会社選びの判断材料や、実施するリフォームの妥当性、第3者である瑕疵保険法人の存在など、不透明な中古住宅取引で安心・安全を確保する具体策となります。
■中古+リフォームの進め方
それではある程度まとまったリフォームを実現するための不動産購入の進め方をご紹介します。
まず初めに行うのは住宅ローンの事前審査です。
ご自身の借り入れ可能限度額を把握し、家計の状況から適切な返済可能額を検討し、住宅購入予算を決めます。
通常であれば不動産会社へ訪問し具体的な物件探しを行うのですが、物件探しを行うのと同時にリフォーム会社選びも始めます。
「購入する物件が決まっていないとリフォーム会社に相談できない」は間違いです。
これから住宅購入をするのでリフォームを依頼したい旨を伝え、既存住宅売買瑕疵保険の手続きができるかどうかを確認し、実施したいリフォームのイメージを伝え、どれくらいリフォーム予算を確保しておくべきかの目安を教えてもらいます。
予め設定した購入予算からリフォーム費用の目安を引いた額が物件価格の予算となります。このリフォーム費用の目安については不動産会社にも伝え、予算に収まる範囲の物件提案にしてもらうように依頼します。
物件の内見などを行って購入しようと思える物件が見つかったら、リフォーム会社に物件を見てもらいます。
他に購入希望者がいないのであれば、できれば買付申込前にリフォーム会社に見てもらいたいのですが、取引の状況によっては買付申込の後になる場合もあります。
ここでリフォーム会社に行っていただくのが、リフォームの概算見積りです。
物件が決まっていますので、物件の状態を見ながら、この物件を購入するとしたら実施したいリフォームを伝え、リフォーム費用を確認します。
このリフォーム費用と物件価格が購入予算に収まっていれば、取引を進めても問題ありません。
予算が足りない場合はリフォーム内容を削るか、借り入れ可能限度額を超えない範囲で購入予算を増やすことができるかを検討します。
この時に瑕疵保険の検査基準で指摘事項となりうる部分がないかどうかも見てもらえるとより安心して購入判断を行うことができます。
買付申込を行い不動産売買契約が具体的になったら、不動産会社に住宅ローン正式審査のスケジュールを確認して、間に合うようにリフォームの見積りなど必要な資料を準備します。
リフォーム工事は所有権移転後になりますが、不動産売買契約後、所有権移転までに既存住宅売買瑕疵保険の加入手続きを進めてもらいます。
おおよそこのような流れで進めることができれば、リフォーム資金が足りない、家屋の不具合に気が付かないなどの状況を回避しつつ、全てとは言えませんが希望したリフォームを実現することができると思います。
大切なのは不動産会社の理解を得ることです。
リフォーム会社を中心に取引を進めても、物件の売買契約や住宅ローンの手続きなどは不動産会社の役割なので、不動産会社にも主体的に動いてもらう必要があるからです。
物件探しの段階で不動産会社に相談した段階から、まとまった規模のリフォームを行うことを伝え、リフォーム会社と協力して取引を進めてもらうように依頼します。
以上、中古+リフォームのご説明でした。
中古+リフォームは新築注文住宅でしか実現できない「家づくり」を体験する絶好の機会です。
リフォームを行うことで資産価値が上がるといったことはないのですが、住宅購入の満足度が違いますし、その後の生活の質にも影響します。
中古住宅をご検討の方は、積極的なリフォームもあわせてご検討してみてはいかがでしょうか。