年収だけじゃない!銀行が見る「隠れた借金」と「属性」の真実
1 マイホームへの夢を阻む、住宅ローン審査の壁
人生最大の買い物であるマイホーム。理想の物件を見つけ、いざ住宅ローンの申し込みに踏み切ったものの、金融機関の審査に落ちてしまい、計画が頓挫してしまうケースは少なくありません。
「年収には余裕があるはずなのに、なぜ審査に落ちたのだろう?」
そう疑問に感じる方は多いでしょう。実は、住宅ローン審査は単に申込者の年収だけを見ているわけではありません。金融機関は、提出された書類の裏側にある「申込者の属性(信用情報)」や、申込者自身が気づいていない「隠れた借金」まで、非常に厳しくチェックしているのです。
2 住宅ローン審査、民間と【フラット35】の違い
まず知っておきたいのは、住宅ローンには大きく分けて「民間金融機関のローン」と、国が支援する「【フラット35】」の2種類があり、それぞれ審査の焦点が異なるという点です。
① 民間金融機関の住宅ローン
こちらは、主に「人」に対して厳しい審査を行います。
• 重視される点(借り手): 最低年収、勤続年数、雇用形態(正社員か否か)、そして健康状態(団体信用生命保険への加入が必須の場合が多いため)。企業によっては、勤務先の経営状況まで審査対象となることもあります。
• 物件への制限: 比較的緩やかです。
② 【フラット35】
こちらは、主に「物件」に対しても、厳しい審査を行います。
• 重視される点(物件): 住宅が一定の技術基準に適合しているかどうか。建物に高い品質が求められます。
• 借り手への制限: 最低年収や申込時の年齢制限はあるものの、職業や勤務先による制限は民間に比べて緩やかです。
良質な建物であれば金利優遇が受けられる【フラット35S】や、最長50年の固定金利が組める【フラット50】など、商品の多様性も魅力です。どのローンを選ぶにせよ、「人」と「物件」のどちらが厳しく見られるかを事前に把握しておくことが、戦略的な住宅選びの第一歩となります。
3 銀行は提出書類の「裏側」で何を見抜くのか?
サラリーマンの方が住宅ローンの事前審査で提出を求められるのは、通常「運転免許証」「健康保険証」「源泉徴収票」の3点です。銀行は、これらの書類から以下の3つの要素を徹底的に検証しています。
① 運転免許証(本人確認と住所の確認)
氏名と住所の本人確認が主目的です。住所変更や氏名変更の履歴なども確認されます。
② 健康保険証(勤続年数と雇用形態の真実)
保険証の「資格取得日」は、勤続年数の重要な裏付けとなります。申込書に自己申告で記載した勤続年数と照合し、齟齬がないかを確認します。
さらに、加入している健康保険組合の種類を見ることで、その会社に正社員として勤めているかどうかが分かります。自社の健康保険組合に加入していないパートや派遣社員などの場合、正社員ではないことが明らかになります。ただし、パートや派遣でも加入状況によっては正社員と同等の扱いとなる場合もありますが、いずれにせよ勤務形態を正確に把握するための、重要な手がかりとなります。
③ 源泉徴収票(年収の確認と安定性の評価)
源泉徴収票でまず年収を確認しますが、実は銀行は民間企業が発行する源泉徴収票を「非公式な書類」と捉えており、これだけで信用することはありません。本審査の段階で、役所が発行する「課税証明書」などの公的書類と突き合わせることで、年収の真偽を確認するのです。
また、年収の「安定性」も評価の対象です。源泉徴収票の額が低かったり、基本給に変動の大きい歩合給(インセンティブ)が多く含まれていたりする場合、銀行は収入が不安定だと判断します。特に歩合給は、不安定要素として年収から2〜3割減として評価される可能性もあります。毎月確実に支払われている給与額こそが、審査において最も重要視されるのです。
4 借入可能額を劇的に下げる「隠れた借金」の正体
住宅ローン審査の最大の落とし穴が「既存借入」の存在です。銀行は、住宅ローン以外の借入(カーローン、カードローン、教育ローン、その他の分割払いなど)の月々の返済額を、年収から住宅ローンに充てられる金額を算出する際に、厳格に差し引いて計算します。
この既存借入が、あなたの借入可能額を劇的に引き下げる原因となります。
① カーローンは「年収100万円ダウン」と同じ影響も
例えば、年収600万円の方が毎月3万円のカーローンを返済しているとしましょう。この月々3万円の返済があるだけで、住宅ローンの借入可能額は、既存借入がない場合に比べて1,000万円近くもダウンしてしまう可能性があります。これは、年収が実質的に100万円ダウンした方と同等の評価になるほどの、大きな影響です。
② 見落としがちな「割賦販売」という名の借金
さらに注意が必要なのは、申込者本人が「借金」と認識していない割賦販売です。
• ショッピングの分割払い: 例えば、12万円のパソコンを3回分割払いにした場合、銀行は総額ではなく「月々の返済額(4万円)の12ヶ月分」として既存借入額に参入して審査します。
• 携帯電話・スマートフォンの機種代金: これが最も見落とされやすい隠れた借金です。多くの携帯電話会社は機種代金を月々の利用料金から割り引く形で販売しており、利用者はローンを組んでいるという自覚がないことがほとんどです。しかし、この月々2,000円〜3,000円程度の機種代の割賦販売であっても、住宅ローンの借入可能額を100万円近く変えてしまうほどのインパクトがあります。
また、金融機関によっては、クレジットカードの「ショッピング枠」の分まで既存借入として捉える場合もあるため、月々の利用料金が発生しているものはすべて割賦販売ではないか確認が必要です。
5 賢い住宅購入は「事前審査」から始まる
資産価値が下がりにくい賢い住宅購入を実現するためには、物件を探す前に、まず「お金に関する正確な情報」を収集することが不可欠です。
そのためにも、住宅ローンの「事前審査」を物件探しの最初に行うことを強く推奨します。
事前審査によって、あなたは以下の重要な情報を正確に把握できます。
1. ご自身の最大借入可能額: これがわからなければ、適切な価格帯の物件を判断できません。
2. 既存借入の正確な影響: 銀行があなたの既存借入をどのように評価し、それが借入可能額にどの程度影響しているかが明らかになります。
3. 信用情報の確認: 携帯電話の未払い履歴など、個人信用情報に問題がないかどうかも同時に調査されます。
転職したばかりの方、既存借入が多い方、夫婦の収入を合算してローンを組みたい方など、特に不安要素がある方は、問題点を予め不動産エージェントに伝え、しっかりとサポートしてくれる専門家を選ぶことが、審査突破への近道となります。
「年収が高いから大丈夫」という安易な考えは禁物です。住宅ローンは、あなたの信用と、購入する住宅の価値を担保にする、厳格な金融取引です。審査の仕組みを正しく理解し、万全の準備をもってマイホームへの夢を現実のものにしてください。











