不動産取引ガイド

インスペクションに関するボタンの掛け違い その3

インスペクションに関する勘違いシリーズです。
今回は「調査対象範囲」という点についてご説明します。

インスペクションといっても、無制限に建物全部をくまなく診る訳ではありません。
木造戸建て住宅の場合、構造部の重要な部分は壁の中にあるので、壁・天井・床をすべて解体しないとすべてを診ることができません。

全てを解体しないと成立しないインスペクションでは、費用がかかりすぎるので、建物状況調査は、非破壊目視で確認できる範囲のインスペクションとして定義されています。

無料の調査ではないのですが、限られた範囲の調査になるので、調査結果について過剰に期待することはできません。

インスペクションの範囲は実施する事業者が決めます。
インスペクションの申し込みの段階で、調査する範囲と調査しない項目を明示することになっていますので、インスペクションの申し込みにあたってはどの範囲で調査が行われるか確認するようにしましょう。

<消費者と検査事業者の認識違いがある項目>

・シロアリはほとんど検査できません

建物状況調査(瑕疵保険の現況検査も同じです)では、床下は点検口から目視できる範囲が調査対象となります。
たまたま点検口から蟻害を見つけることができれば良いのですが、点検口から確認できるのは限られた範囲なので、シロアリはほとんど検査できないと判断した方が現実的です。
シロアリが不安な場合は、別途シロアリ消毒業者が実施するシロアリの検査を依頼する必要があります。

・設備は対象外です

建物状況調査(瑕疵保険の現況検査も同じです)は、構造躯体と雨水の浸入が主な検査項目になります。
キッチンやお風呂、トイレなどの住宅設備は検査対象外であることが多いので、注意が必要です。
同様に壁や床・天井でも意匠に関する項目は対象外ですので、床に大きな傷があったり、クロスの著しい汚れなどは検査項目ではありません。

・耐震も対象外です

建物状況調査(瑕疵保険の現況検査も同じです)では、耐震診断は検査項目に含まれません。建物の耐震性を知りたい場合は、別途耐震診断を実施する必要があります。

・結果報告書は検査時点のものであり、将来に渡って劣化など不具合が起きないことを表すものではありません

原則として、すべてのモノは経年で劣化します。
建物状況調査の結果はあくまで現時点のものであって、将来的に劣化しないことを表すものではありません。
「建物状況調査の結果、指摘がなかったから、劣化しないものと思った」ではなく、「建物状況調査の結果」を踏まえて、各部位のメンテナンスについて、いつ行うべきかを相談する、という利用方法が適切だと思います。
※売主が実施する建物状況調査は、現況を明らかにするという別の目的があります。

こうして挙げると、「何のためにインスペクションをするのかわからない」という状態に陥る人もいるのではないでしょうか。
これこそがボタンの掛け違い。大きな勘違いです。
検査だけでは何の保証もありません。
知るだけではリスクはヘッジされません。
大切なのは、検査の結果を今後のメンテナンス計画に組み込むことです。

従って、インスペクションの結果で指摘がなかった建物が、リフォームにお金のかからないお買い得物件かと言えば全くそうではありません。
新築を買ったとしても、いすれはメンテナンスが必要です。
インスペクションの結果を受けて、購入時点で実施しておいた方が良いとされるリフォーム、積み立てなど計画を立てて準備するべきリフォーム、故障するまで利用して壊れたら直すもしくは交換するものなど、今後どのようにメンテナンスをしていくべきかについては、現況を知らなければ計画が立てられませんし、立てた計画の予算感を見ないと、その物件が本当にリフォームにお金がかからないお得な物件かどうか判断することはできません。

資金計画がギリギリの場合、インスペクションの結果が良くてラッキーと思ってしまいがちですが、得てしてそういう状態に限って大きな劣化事故に見舞われることがあるので、木造戸建てを検討する際は、購入時だけでなく、返済計画においても、余裕を持った資金計画が大切です。
※マンションと同じく修繕積立金として毎月プールする運用が良いと思います。

リニュアル仲介の稲瀬でした。
※このシリーズは数回続きます。

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