今年の9月1日は関東大震災の発生から100年を迎える節目のタイミングでした。関東大震災では、密集する木造建築物や強風などが要因で延焼が止まらず、現在の東京23区の中心部にあたる旧東京市全体の4割強が焼失したという記録が残っています。約10万5千人の死者・行方不明者のうち、9万人以上が火災によるものだったようです。今回の解説記事は、その教訓を踏まえ、解説をしたいと思います。
■木造住宅密集地域の解消が進まない東京都内23区の悩みについて
首都直下地震の被害を減らすため木造住宅密集地域(木密地域)の解消が急務となっています。東京都内の密集地は10年で半減したようですが、なお約8600ヘクタールと23区の1割強に相当する面積が残っています。住民の高齢化や建て替え費用などが壁となっており、東京都は住民の移転促進や老朽化した建物の解体費補助の対象拡充など解消を急いでいます。
木造住宅の延焼をどう抑えるかは今も課題となっており、2022年5月に都が公表した首都直下地震の被害想定でも死者6148人のうち、火災によるものが4割を占めています。
木密地域は一度燃え広がると消火が難しく、被害が甚大になりやすく、老朽化で建物の倒壊リスクも高くなります。街の燃えにくさを表す指標として「不燃領域率」というものがあります。市街地で、鉄筋コンクリートなどの耐火建築物や、道路、公園など一定の広さのある場所が占める割合を示しています。東京都は不燃領域率が60%未満など延焼リスクが高いエリアを「木密地域」と定義し、防火帯となる道路の整備などを進めてきました。
東京都は東日本大震災後の2012年、木密解消に向け「木密地域不燃化10年プロジェクト」に着手しました。
<木密地域不燃化10年プロジェクト実施方針>
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/mokumitu/pdf/houshin.pdf
多大な被害が予想される木密地域を28カ所指定しました。不燃領域率を延焼の危険性がほぼなくなる70%に引き上げることを目標とし、古い建物の撤去費の補助などを打ち出しています。
2010年時点で約1万6千ヘクタールあった木密は、2020年に約8600ヘクタールとほぼ半減しました。木密解消の地域差も大きく、目標の70%に達したのは28地域中5地域となっています。28地域の平均も約65%、東京都は20年度までの計画期間を25年度まで延長せざるを得なかったようです。
■木密地域の解消が円滑に進まない要因は主に3つある!
1つ目は税の問題です。建物を解体して更地にすると宅地としての減免措置が無くなり、支払う固定資産税の額が最大で6倍になる可能性があります。東京都には解体後5年間は負担増加分の大半を緩和する特例措置がありますが、恒久的に続けるのは難しいようです。
2つ目は住民の高齢化です。木密地域は古くから住む高齢者も多く、建て替え資金の捻出が難しいケースが多いようです。地域で築いたコミュニティーや土地への愛着がある上、高齢化するほど住み替えの意欲や資金力が乏しくなる事も要因のようです。
3つ目は土地や建物の権利関係の問題となります。長期間居住する中で複雑となっているケースも少なくなく、住宅の撤去や建て替えには時間と手間が掛かります。
こうした課題の対策の一つとして、木密地域の住み替えを促す住居確保の取り組みがあります。
■木密地域解消を目指した事例「コンフォール東池袋」
独立行政法人都市再生機構(UR)が2021年に建設した賃貸集合住宅「コンフォール東池袋」(東京・豊島)があります。豊島区がURに建設を要請し、木密解消を進めるため、建物の解体などに応じた人が借りられる仕組みをつくっている不動産です。
東京都も木密地域にほど近い都有地を活用した移転先住宅の整備を進めており、初の物件が足立区に2023年9月末に完成しました。
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/sokushin/itensaki.html
入居状況を踏まえ、他の都有地でも追加で整備するかどうかを検討するようです。
耐火性のある住宅への建て替えも支援しており、設計費用などを補助してきた東京都は、2023年度から特に危険性が高い地域では建て替え工事そのものも補助対象に拡充しています。
木密地域は徐々に改善していますが、多くのエリアが燃えにくい街になっているとは言いがたい状況となり、燃えない街の実現は細い街路をいかに拡幅できるかにかかっています。行政は長期的な視野で住民と寄り添ってまちづくりをどう進めるか考える必要です。
いずれにせよ、このような木密地域の問題は東京都内23区で不動産購入をする事のリスクにも通じるお話だと思います。
今後の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕