最近地震が多発していますが、2021年10月7日に東京・埼玉で震度5強の地震が発生したときには、
テレビでも大きく取り上げられ、地震発生直後はホームセンターへ防災グッズを買い求める消費者が多かったと言われます。
今回は地震防災のうち自宅の事後防災についてご説明いたします。
■地震防災における「事前防災」「事後防災」
防災には大きく分けて二つの観点があります。「事前防災」と「事後防災」です。
事前防災は地震が発生しても被害に見舞われないように予め行っておく防災対策のことで、耐震改修工事などが挙げられます。
事後防災は地震発生後に備えるもので、大きな災害が発生すると注目される防災グッズを揃えることは事後防災です。
防災グッズを買いそろえても地震で自宅が倒壊してしまっては意味がありません。
「事前防災」と「事後防災」もどちらも大切です。
■事後防災の優先順位
防災対策を考える際に、防災グッズを買い揃えることを考える方が多いです。
しかしほとんどの防災グッズはそれほど優先順位が高いとは言えません。
防災は最悪の想定が重要です。そして優先されるのは身の安全です。
ガラスの破片で怪我をしてしまうことと、水が出なくてトイレに困ることはどちらが重要かは言うまでもありません。
防災対策には優先順位があります。
決してお金を出して防災グッズを買って終わりではないので注意してください。
■まずは身を守る
「事前防災」と「事後防災」の線引きが明確でないので、ここでは地震発生直後、自宅は倒壊せず、家具の転倒などで怪我を負っていない状況を想定します。
自宅が倒壊しなかったとは言え地震発生直後は自宅がどれだけダメージを負ったのか判断できません。
地震直後は大丈夫でも余震で倒壊してしまう恐れがあります。
従って多くの場合で安全な場所への避難が必要と判断されます。
防災グッズを入れたバッグを背負って玄関からいざ避難!ではありません。
家屋からの脱出に目を向けなければなりません。
自宅からの避難を考える場合、優先順位が高いのは足の安全です。
お勧めなのは底が厚めのスリッパです。(できればスリッパを履く生活習慣)
地震で家具は散乱し、大地震になると窓ガラスも割れてしまいます。
玄関にたどり着く前に足を怪我してしまうかもしれません。
扉が歪んで玄関から脱出できない場合も想定されます。
外に出ようにも靴を履くことすらできない場合があるのです。
スリッパを身近に置いておけば足の怪我を防止することができます。
続いてあると良いのは軍手です。
足元に比べれば手先は意識が向きやすいのですが、手の保護をしておくと安心です。
スリッパと軍手をお勧めしたのは生活空間(インテリアなど)に与える影響が少ないので備えて起きやすいからです。
防災グッズでヘルメットを挙げる方もいらっしゃいます。
確かに頭を保護する目的でヘルメットは有効です。
しかし、普段の生活空間にヘルメットはマッチしません。(避難グッズを詰め込んだリュックもそうです)
こうした日常にマッチしない異物は防災意識が高いうちはよいのですが、そのうち収納の奥深くにしまわれてしまって、いざという時に利用できなくなってしまいます。
スリッパと軍手を例に挙げましたが、このように身を守る効果が高いもので、日常の生活空間においても邪魔にならないものが優先順位が高いと言えるでしょう。
寝ている間に地震が発生することも考えられます。
寝巻から着替える余裕もありません。
そういった状況を想定して、上から簡単に羽織れるもの(厚手のレインコートがお勧め)を寝室にかけておくのも有効です。
昨今のアウトドアブームでおしゃれなレインコートも増えているので、インテリアを邪魔しないデザインのものを選ぶのが良いでしょう。
■枕元に笛を置く
前述の想定では家具の転倒などで怪我を負っていない状況と記載しましたが、倒壊した家屋や家具の転倒などで身動きが取れなくなる状況も考えられます。
こういった状況になると救助を待つしかなく、自分の存在を外に知らせる手段が必要です。
ここで役に立つのが笛です。
ネックレス状のものを日頃から身につけるのを推奨する方もいらっしゃいますが、普段使わないものを携帯し続けることは現実的ではありません。
お勧めなのは枕元に笛を置いておくことです。
1日8時間睡眠すると考えると、1日のうち1/3は補えることになります。
寝ている間の地震だと咄嗟の回避行動も取りずらいので、動けなくなるリスクは日中よりも高いと言えます。
万が一の備えは考え出すとキリがないのですが、比較的安価な笛を置いておくだけなので、お勧めの対策です。
■年1回の家庭内防災イベントを開催しましょう
自宅からの脱出まで想定できたら後は優先順位の選択肢が広がります。
防災対策の欠点はお金がかかるということです。
無尽蔵にお金を投じることができる方は除いて、ほとんどの方はいつ起きるかわからない地震のためにあまりお金を使いたくないというのが本音だと思います。
防災グッズというと水・食料を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
国も最低限3日分の備蓄をすることを推奨しています。
ただ、この備蓄食料には消費期限があります。
定期的に防災グッズの点検を行うことができる家庭なら大丈夫なのですが、備蓄食料を買ったはいいものの、どこに片付けたのかわからない、気が付けば何年も前に期限が過ぎていた、ということも良く起こります。
お勧めなのは年1回の家庭内防災イベントを開催することです。
タイミングは任意で良いのですが、忘れないように報道などが行われる1月17日(阪神淡路大震災が発生した日)、3月11日(東日本大震災が発生した日)、9月1日(関東大震災が発生した日で防災の日と言われます)などを目安にすると良いでしょう。
家庭内防災イベントの日に避難訓練や学校・職場からの避難経路の確認、緊急連絡先の共有などを確認し、持ち家の方は建物や家具転倒防止の点検も行います。
そして備蓄食料の点検を行い、次回のイベントまでに期限が切れるものを交換します。
捨てるのはもったいないので、交換した備蓄食料を家族で食べるというのもイベントに含めるのが良いでしょう。
家族で防災について情報共有することも大切な防災対策です。
年1回の家庭内防災イベントをぜひ継続してください。
■防災グッズの置き場所
無事自宅から脱出し避難所へたどり着いた後を想定します。
この頃になると地震直後の混乱も収まり、これからのことへ目が向き始めます。
当面の食べ物や衣服、トイレなどの問題が顕在化します。
安全の確保がひと段落して、不便の解消がテーマになってきます。
市販されている防災グッズはこの段階で役に立つものが多いです。
「防災グッズを詰めたバッグを背負って避難所へ」ではなく、「着のみ着のまま何とか自宅から脱出」という状況になるので、備蓄した防災グッズは後から取りに行く方が現実的と言えます。
途中の説明にも記載した通り、防災グッズは日常の生活空間にマッチしません。
防災グッズの置き場所問題が発生します。
ご家庭でいろいろと工夫が必要なところですが、屋外に倉庫があれば防水対策をしっかりして倉庫に置くのが良いでしょう。
戸建ての方が対象になりますが、屋外に倉庫がない場合は、なるべく上の階に置いた方が良いと言えます。
家屋の構造を考えた場合、すべての階が一気に崩壊するのではなく1階から倒壊します。1階が無事で2階だけ倒壊するということも考えられません。
従って、屋外に置いておけるなら屋外に、そうでないならなるべく上の階に保管しておいた方が、万が一の倒壊の際でも防災グッズを取り出せる確率が上がる、というわけです。
防災グッズの優先順位を検討して、スリッパや軍手など自宅から脱出する際に必要なものは身近に、備蓄食料など後からでも良さそうなものはなるべく上の階に収納すると考えると、日常の生活空間の邪魔にならない、持続しやすい防災対策を講じることができると思います。
今回は事後防災をテーマにしました。
防災対策には100点満点はありません。
家族で情報共有を行い、その時々の最適な対策を講じるためにも、単に防災グッズを買うだけよりも、年1回の家族内での防災イベントを開催することの方が効果が高いと思いますので、まずはご家族で防災について話をすることをお勧めいたします。