日本の一般的な住宅はファミリータイプと呼ばれるように子育てを想定した間取りになっています。
子供が小学生に上がった頃に購入して、大学を卒業する頃に親元を離れることを想定すると、子供が家を使う期間はおよそ15~16年位です。
一方住宅ローンは35年で組む方が多いので、およそ20年間子供がいない期間を過ごすことになります。
ライフイベントと住宅の関係について「住宅スゴロク」という表現をすることがあるのですが、今回は持ち家に最適な間取りについて考えてみたいと思います。
■これまでの住宅スゴロク
親元を離れて単身者向け賃貸に住むところから住宅スゴロクが始まります。
結婚をして夫婦二人で生活するための少し大きめの賃貸へ移ります。
中には子供が産まれたのでさらに大きめの賃貸へ引っ越す人もいるでしょう。
周りが家を買い始めると子育てのための家を購入します。
やがて子供が大きくなって独立しますが、そのまま住み続けます。
更に年を重ねて介護が必要になり、高齢者向け施設への入居を余儀なくされます。持ち家はそのままです。
最後は病院で息を引き取ります。独立した子供も家を持っているので、多くの場合持ち家は相続時に処分されることが多いようです。
これが住宅業界で良く言われる住宅スゴロクです。
現在の多様化されたライフスタイルとミスマッチなのがよくわかると思います。
■使い勝手の悪い小分けにされた3LDK~4LDK
まずは一般的な住宅の間取りを想定します。
ファミリータイプは3LDK~4LDKが主流です。LDKと夫婦の居室、子供部屋という区分けですね。
LDK以外の居室は6帖くらいの広さが一般的と言えます。(都心部だと6帖も取れないですが…)
この6帖くらいの広さの子供部屋が後々問題となります。
年頃になるとプライバシーの関係から子供に個室を用意したいと考える方が多いです。
子供が利用する分には有効なスペースですが、いざ子供が独立してしまうと、元子供部屋の取り扱いに困ってしまいます。
この記事を読まれている方は既に実家から独立している人が多いと思いますが、実家にかつて自分が住んでいたころの荷物や家具が置きっぱなしになっていませんか?
親世代からすると元々使っていなかった子供部屋スペースがいきなり空いても利用目的ありません。
新築時にいずれはリフォームで広くできるような設計になっていない限り、小分けされたスペースはそのままで、結局荷物置き場になってしまっていることが多いようです。
中には子供が住んでいたころのまま放置している家もあるみたいですね。
子育てのための間取りは子育てが終わると最適な間取りとは言えないのです。
■帰省という呪縛
空間利用の効率を考えると、子育てが終わったら夫婦二人が過ごすのに最適な間取りの家への住み替えを行うのが合理的です。
しかしシニア世代の住み替えは一般的ではありません。
シニア世代の住み替えを邪魔する要因の一つは「帰省」という文化です。
お盆やお正月に子供達が帰省する際に、子供達(孫達)が泊まるスペースが欲しいのです。
親が住んでいるところが「実家」と割り切ることができれば良いのですが、子供達からすると家だけでなく周辺の環境も含めて「ふるさと」と言える存在なので、かつて住んでいた環境が失われるのは寂しいものです。
親世代からしても家族を営んできた「想い出」は効率だけで割り切ることは難しく、結局子供達が返ってくる場所を守るという判断をされる方が多いようです。
■シニア世代の住み替えはグレードダウンなのか
シニア世代の住み替えが進まない理由がもう一つあります。
それは住宅取得資金です。
初めて家を買う1次取得層は年齢も若いので35年という長期間の住宅ローンを利用することができますが、シニア世代は住宅ローンを組むことができても期間は短く、それほど多くの金額を借りることができません。
かつて購入した金額とあまり変わらない金額で売却ができれば住み替えの選択肢も広がるのですが、売却しようにも二束三文といった状態では住み替えのための資金を準備できません。
移住を考えるとどうしても今の環境よりもグレードダウンしてしまうイメージが先行して、積極的な住み替えの検討にならないのが現状だと思います。
■幸せな老後を考える
実家の維持と幸せな老後は必ずしもリンクしません。
親と子供の距離が離れると、老後の選択肢が狭まるからです。
実家が関西で子供が関東に住んでいると想定します。
親が元気なうちは、上記のような「想い出の実家」が機能します。
しかし、親が体調を崩し介護が必要になったと考えると、親と子供の距離が離れているため高齢者施設に頼るしか方法がなくなってしまいます。
もしかするとその頃には子供も家を購入しているかもしれません。
しかし子供が購入する家は子育てのための家です。
そこには親の介護を行うためのスペースがありません。
老後を考える上で住宅スゴロクを最後から遡ってみます。
住宅スゴロクの最後は病院です。
自宅で家族に見守られながら息を引き取るというのは幻想でしかなく、多くの方は病院で最後を迎えます。亡くなるまでの一定期間病院での生活が待っています。
高齢による体力低下から、一人(もしくは老夫婦)で生活できなくなると介護が必要になります。
つまり老後を考える上で「介護」→「病院での生活」を外すことができません。
幸せな老後は子供・孫世代が与えてくれるものではありません。
きちんと計画し子供・孫世代が困らないように準備をしておく必要があります。
住宅スゴロクの終盤、「介護」→「病院での生活」においてはマイホームの存在は意味をなしません。
「想い出」にすがるよりも資金化して介護費用に充てた方が、子供・孫世代が困らないからです。
■これからの住宅スゴロク
従来の住宅スゴロクの問題点として下記が挙げられます。
・子供が独立すると無駄なスペースが発生します。
・高齢者施設への入居費用を貯蓄しておく必要があります。
・高齢者施設の費用が不足した場合、子供が勝手に家を売却することができないので、不足分を子供が負担することになります。
・住宅スゴロクの終盤は誰も家に住まない(無駄になる)時期があります。
・相続時の売却は思うように進まない(買いたたかれる)恐れがあります。※早く処分しようと思うと売却価格を高く交渉できません。
子供や孫世代に迷惑をかけるのは本意ではありません。
これからは以下のような新しい住宅スゴロクを考える必要があります。
・社会人になって独立し単身者用の賃貸に住みます。
・結婚して夫婦二人で生活できる賃貸へ住み替えます。
・子供が産まれて、子育てのためのファミリータイプの家を購入します。
・子供が成長し独立すると再び夫婦二人の生活に戻ります。
この頃から自宅の資金化・住み替えを検討します。
特に子供が遠くに住んでいる場合は子供が住む近くのエリアへの住み替えを検討します。
・介護が必要になり高齢者施設へ入居します。
遅くとも高齢者施設への入居までに自宅を処分して入居費用に充てます。
・病院での生活を余儀なくされ最後は病院で息を引き取ります。
・自宅を売却した資金で残った金額が子供に相続されます。
重要なのは家を買って終わりではないという点です。
終の棲家といって死ぬまで住むつもりでいても、子供に迷惑をかけたくなければ、どこかの段階で家を売らなければなりません。
どれだけ介護費用で困ったとしても子供は「想い出の実家」を処分できないからです。
遠い将来の話なのでイメージつかないかもしれませんが、これから家を買う方は、いい加減な選び方をすると、自分が高齢者になった時に自らの首を絞めてしまいます。
家を買う時には家を売る時のことを想定しなければなりません。
これが令和時代の住宅購入です。
これから家を買う方が持ち家の売却を考える頃には、今よりシニア世代の移住がしやすい文化が育っていることも期待できます。
「将来売れる家を買う」
これがこれからの住宅スゴロクの大切な考え方になります。