住宅関連で賃貸VS購入というのは鉄板ネタと言われ、様々な角度から意見が出されています。
私は不動産売買に携わる人間なので、賃貸か購入かと問われると購入をお勧めしますが、これはビジネスにつなげたいからだけではありません。
どちらもメリット・デメリットが存在するから鉄板ネタなのであって、どちらが良いではなく、様々な意見に触れてよく検討するのが正解です。
ただ、玉虫色の回答では面白くないので、本記事は購入一択という立場で説明いたします。
■どちらがお得か?を分解する
賃貸VS購入論争には様々な論点があります。
まずはどちらがお得か?という論点で説明いたします。
このどちらがお得か?という論点には見えているコストと長期的なコストの二つの要素があります。
見えているコストについては、賃貸VS購入論争においては、家賃と毎月のローン支払い額、それに加えて諸経費や維持管理費などが挙げられます。
賃貸VS購入論争における賃貸派の意見として、支払うコストがそれほど差がないのであれば、リスクが少ない賃貸の方が良い、というような意見です。
例を挙げたので、これに対する購入派の意見もご紹介しますが、最近はだいぶ雰囲気が変わってきましたが、少し前まで賃貸VS購入論争の見えているコストについては、所有不動産の売却が想定されていないことが多く、条件がイーブンでない意見が多かったことがあります。
そのため、購入派は最終的に家が残るという主張をして、それに対して賃貸派が各種メンテナンス費用がかかると重ねて主張します。
問題を切り分けないと不毛な論争になりがちで、賃貸VS購入が鉄板ネタと言われる所以だと思います。
長期的なコストとはまさにこの論点で、将来時点で結果的にお得であったかどうか?というものです。
今回の記事ではこの二つを一旦切り分けてご説明いたします。
■同じ条件なら賃貸がお得になることはほぼない
不動産の価値は立地にあるので、ここでは同じエリアの同じようなスペックの物件だと仮定します。
※結構重要な前提なのですが、ここが抜けている意見が非常に多いです。
物件がほとんど同じと仮定すると、見えているコストで、購入より賃貸の方がお得だということはほぼあり得ません。
まずは賃貸です。
前提として把握しておかなければならないことは、賃貸オーナーは事業として賃貸業を営んでいるので、赤字経営は容認できません。
(企業の福利厚生や地域貢献など採算度外視のケースもあるので、ほぼないという表現にしています)
土地の購入費用や建築費など、賃貸用の物件を建設するためには多額の費用が必要です。そしてこれらの費用を賄うために融資を受けた場合は、当然金利もかかります。
事業用のローンは住宅ローンに比べると金利が高いので、金利負担も大きくなります。
更に空室が発生した場合のリスクを分散させる必要がありますし、設備の保守・メンテナンス費用も勘案しなければなりません。
当然ながら事業として取り組むのでオーナーの利益も計算します。
これらを踏まえて、周辺の賃料相場を考慮しながら決定されるのが賃料です。
購入の方も月々のローン返済額だけでなく、メンテナンス費用を考慮しなければイーブンではありませんが、それを加味したとしても、同じエリアの同じようなスペックの物件という前提の場合、賃貸の方がお得というのはほぼないと言えます。
今の賃料で家が買えると住宅会社のキャッチコピーなどでよく目にしますが、実は当たり前のことで、今の賃料と同じ額の返済額とすると、購入する物件が、よりよい立地だったり、ハイスペックな家だったり、”今より贅沢な家”であることが多いです。
「今の賃料で家が買える」を真に受けてはいけないという意見を聞いたことがある人もいらっしゃると思います。
これはローンが支払えなくなるかもしれないというリスクの話ではなく、浮かれて贅沢な家を買ってはいけないという側面もあります。
ローンが組めることが前提ですが、家を買う方が月々の住居費を抑えることができる、節約のための購入というのも成立します。
■将来のことを考えて買う
続いて賃貸派が良く主張する将来的な話をします。
家を買うと価値が下がり続け、ローン完済する頃には二束三文になっているから住宅は資産とは呼べないという主張です。
実はこの主張も少し古くて、日本における中古住宅流通が活性化したのはここ10年くらいの話なので、新築偏重時代のイメージを引きずっているケースが多く見られます。
中にはバブル期の話をされる方もいますので注意が必要です。
将来購入した家がいくらで売れるのかを現在時点で正確に把握することはできません。
しかしだからと言ってまったく考慮しないのは間違いです。
こういったケースの場合に戸建て住宅が例に挙げられますが、35年ローンを完済した頃には言えもボロボロで…というような主張です。
確かに建物の価値は毀損してしまうかもしれませんが、土地の価値は経年で毀損するものではありません。土地の価値は周辺の取引状況で変動します。
家がボロボロで価値がつかないという状況を最悪と想定するなら、最悪の場合でも土地としては売却できるので、多くの賃貸VS購入論争のシミュレーションがひっくり返ることになります。
こういうお話をすると、そもそも家が(土地が)売れなかったら、賃貸の方が結果的に良いということになるじゃないかと反論が出ます。
その意見は正しいです。
先ほど家がボロボロで価値が付かないことを最悪と記載しましたが、購入派の最悪のシナリオは売りたくても売れない状況です。
日本は人口減少社会で、これからどんどん家が余ってくる時代です。
立地選びを安易に考えてしまうと、売りたくても売れない負動産化する恐れがあります。
将来いくらで売れるかを予測することは困難でも、将来に渡って購入希望者が絶えないエリアを想定することは可能です。
検討エリアの現在の人口動態と自治体による現時点での施策を見ればその危険度が把握できます。
将来の人口動態については楽観できる自治体の方が少ないので、現時点で人口減少の兆しのあるエリアの場合は、よりシビアに立地選びを行う必要があります。
令和時代の住宅購入は「いつでも売ることができる」が前提です。
■賃貸派が語らない将来リスク
賃貸VS購入論争はここ最近少し風潮が変わってきていて、これまでは、賃貸はいつでも住み替えることができる、リスクが少ないことがメリットと挙げられていましたが、最近では高齢になると家を借りることが難しくなるというデメリットがクローズアップされます。
事故物件化してしまうと損失が大きいので、例え収支が合わなくて困っていても高齢者には貸したくないというのが大家の本音です。
その部屋で人が亡くなったという心理的な影響もさることながら、残置物の処理や部屋の清掃・リフォームなどを考慮すると、一般に思われているよりも事故物件化のリスクは大きいと思われます。
住む場所が無くなるというのは言い過ぎだと思いますが、いつでも自由に住み替えできるという訳にはいかず、賃貸派は高齢期に住居問題に直面しなければならないデメリットを抱えます。
他方で購入派は高齢期に有利かというとそうではありません。
これまで賃貸派からよく言われたように家のメンテナンス費用の問題があります。
ですから住宅ローンの返済にしか目を向けないのではなく、将来必要になるリフォーム費用も計画して積み立てておく必要があります。
しかし購入派には高齢期に持ち家という強力なカードを持つことになります。
必要資金が不足している場合は売却になりますが、強い立地の場合は賃貸に出すこともできますし、もちろんそのまま住み続けることもできます。
賃貸派と比較してもローンを完済した持ち家が最強であることは異論はないと思います。
※購入派はローン完済に至るまでのリスクがあるのでこのことだけをクローズアップするつもりはありません。
以上、賃貸VS購入論争であまり語られない内容についてご説明いたしました。
収入など普通の条件なら購入した方が良いというのが私の主張ですが、「いつでも売ることができる住宅購入」が前提です。
将来困るかどうかは今の家の買い方にかかってきますので、資産価値の目減りしにくい住宅購入に関心のある方はお問い合わせください。