死後に相続人不在などの理由で国に入る「相続人なき遺産」がこの10年間で倍増したそうです。金融機関で10年以上取引がない「休眠預金」の活用も増えており、持ち主が不在のために、さすらう資産が年々増えているようです。子や配偶者などの相続人を持たない人が遺言を残さず亡くなると、裁判所が選んだ相続財産清算人が債務を返済するなどして遺産を整理し、残りは国庫に入ることになります。その額が2022年度に768億円と、10年前の375億円から倍増しました。財務省によると、国に入ったお金は使途が決まっていませんが、何らかの歳出に充てられるようです。
■なぜ、「相続人なき遺産」が倍増したのか?!
「相続人なき遺産」が倍増した背景には子や配偶者のいない高齢者の増加や不動産価格の上昇のほか、高齢世帯に資産が集中しているという実態を浮き彫りにしています。
総務省が公開している人口推計(毎年10月1日時点)によると、2012年に約1519万人だった75歳以上の人口(後期高齢者)は2022年には約1936万人となり400万人以上、27%増加しました。後期高齢者の生涯未婚率はこの間にほとんど変動していないことから、子や配偶者がいない人の数も同様に増えていると推測されます。
内閣府が2023年に公表した高齢社会白書では、金融資産の6割以上を世帯主が60歳以上の世帯が保有しているようです。こうした資産は消費や投資に向かいにくく、貯蓄に回りやすいとされています。
相続人の年齢が高齢化する「老老相続」も高齢世帯への資産の集中を促し、政府の税制調査会の2023年の報告によれば80歳以上の被相続人(亡くなった人)が2019年の時点で7割以上と、30年前の1.8倍となりました。被相続人の年齢が高いと相続人の年齢も高くなっていると想定されます。
■相続人がいない人の増加で、今後どうなる?!
相続人がいない人の増加とともに、国庫以外の遺産の行き先を模索する動きも広がっています。注目を集めるのが遺言を残すことでNPOや大学などの団体に寄付できる遺贈寄付というものです。2016年に弁護士などが設立した全国レガシーギフト協会(東京・港)が運営する「いぞう寄付の窓口」など、法律や税制を含めて対応する相談先も増えているようです。
クラウドファンディングを手掛けるREADYFOR(レディーフォー、東京・千代田)は2021年に「遺贈寄付コンサルタント」の役職を創設し、本業とは別の新事業という位置づけで、遺贈寄付をしたい人の相談に乗り、手続きも支援されているようです。寄付相談と並行して身元保証や任意後見制度、死後事務などの説明や紹介をすることも多いようです。
遺贈寄付にあたっては注意すべき場合もあり、不動産や株式といった形式での寄付は受け入れていない団体が多いとの事です。相続人なき遺産のほかに「さすらう資産」の代表格と言えば、銀行や信用金庫などの金融機関で10年以上取引がない「休眠預金」と言われます。2018年に休眠預金等活用法が施行され、公益活動などに有効活用する動きが広がっています。
■今後も「さすらう資産」が増える事が懸念される!
国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計によれば50年には65歳以上の一人暮らしが1084万人と20年に比べて約1.5倍となります。高齢者単独世帯に占める未婚者の割合は男性が6割、女性が3割と20年比で倍増しており、さすらう資産も増える事が懸念されています。
いずれにせよ、このような状態になることが増えることが予想されますが、なるべく健康なタイミングで不動産等の資産は売却等の手続きを行っていただけると良いのかもしれません。また、相続人は被相続人からの不動産をなかなか処分できずにいるケースも多いため、被相続人の死亡を機に思い切って処分してしまう事を検討されても良いのではないでしょうか?
所有者が亡くなったのに相続登記がされないことによって、登記簿を見ても所有者が分からない「所有者不明土地」が全国で増加し、周辺の環境悪化や民間取引・公共事業の阻害が生ずるなど、社会問題となっています。この問題を解決するため、令和3年に法律が改正され、これまで任意だった相続登記が義務化されることになりました。
本年2024年の4月より、相続登記の申請義務化がスタートし、 相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をすることが法律上の義務になります。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割(相続人間の話合い)で不動産を取得した場合も、別途、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要がありますので、注意が必要です。
今後の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕