不動産取引ガイド

壊れるまで使うではなく故障する前に交換する

中古住宅を買って、そんなに日が経っていないのにあれこれ不具合が生じてリフォームに多額の費用が必要になった……。主に住宅事業者が語る中古住宅購入の失敗に関する典型的な例です。
実際は購入前にきちんと検査を行うことである程度は回避できるものの、細かな部分、特に住宅設備機器などは「壊れてから買い替えればいいか」と判断し、住宅購入時に交換工事を行わず、そのまま利用し続けるという選択をされる方が多いです。

■夜間に突然キッチンの水が止まらなくなった!

先日我が家のキッチンの水栓が故障しました。
何の前触れもなく突然です。
シングルレバー混合水栓という、レバーを上下左右に動かして、水量や温度を調節できる、最近のキッチンでは良く見るタイプのものなのですが、水栓のレバーが途中までしか降りなくなって、水が止まらなくなったのです。
シンク下にある元栓を閉じることで水を止めることはできたのですが、キッチンで水を使うたびに元栓を開け閉めするのは非常に手間です。
一刻も早く修理したいと考えました。

インターネットで調べると、どうやらバブルカートリッジという部品の故障のようです。
当然ながら家に予備のパーツなどは置いていませんし、最適な工具を持っているわけでもないので、専門の業者に頼まなければならない状況です。

たまたま加入していた電力会社のサポートサービスで、水回りのトラブルが対象になっていたので、サポート窓口へ連絡し、その日のうちに修理に来てくれることになりました。

余談ですが、今回利用した電力会社のサポートサービスは非常に助かりました。
夜間にもかかわらず、我が家のケースでは、電話を掛けてから2時間後には修理に来てくれるという「超」が付くほどのスピード対応で、いざという時のためにというのはこう言うことなのだと実感しました。
電気だけでなくインフラ関係の事業者や、リフォーム・住宅会社もトラブル対応のサービスを提供していたりするので、住宅設備全部を交換しない場合は、こういったサービスに加入しておくと安心です。

さて、専門業者による修理で良かったねで終われば良かったのですが、そうは行きませんでした。

修理業者さんから最初に問われたのは「水栓の型番はわかりますか?」ということでした。
家中ひっくり返せばマニュアルやら保証書などが出てくるかもしれませんが、何分突然の故障だったのですぐには用意できません。
通常水栓の根本あたりに型番を記したシールが貼られているのですが、水回りと言うこともあり印刷が剥げてしまい型番がわからない状態でした。

「写真をメーカーに見てもらって判断してもらわなければならないため、特定に少しお時間かかるかもしれません。また、パーツの取り寄せにも時間がかかります。」
修理業者は神妙な面持ちでこう告げました。

キッチンで水を使う度に元栓を開け閉めするのは面倒です。
パーツの取り寄せの可能性は頭にあったものの、想定以上に時間がかかるのは勘弁して欲しいというのがその時の想いです。
結局修理ではなく水栓そのものの交換であれば早めに対応できると提案を受け、また、価格もインターネットで調べた相場とそれほど変わらない金額だったため、交換をお願いすることにし、たまたま在庫もあるとのことで、翌日に交換工事が完了しました。
めでたしめでたし?

■水栓故障から判明した住宅業界の本当の姿

背景を記載していなかったのですが、我が家はもうすぐ築20年を迎える木造戸建てです。実は4年~5年前にキッチン水栓の水漏れが発生し、キッチン水栓を交換していました。
その時の保証期間はとっくに切れているものの、一般的な耐用年数から見ても、今回壊れたパーツのみ交換すれば、水栓そのものはまだまだ利用できる状態でした。

しかし、前述の経緯の通り、パーツを照会して取り寄せるまでに1週間以上かかるかもしれない、と言われてしまうと、多少お金がかかっても交換したいという気持ちが強くなるのは仕方がないことだと思います。

一口に水栓といっても様々なパーツで構成されているわけで、交換の可能性のあるパーツについては、せめてメーカー内で規格を揃えて、型番がわからなくてもメーカーが判別できれば判別できるようにしておいて欲しいものです。
壊れやすいパーツなのに、製品ごとに違う商品が使われていたら、今回のように型番がわからないと特定に時間がかかる、事業者も常に在庫を抱えるわけにはいかないので、取り寄せに時間がかかるという事態は容易に想像できるはずです。
なによりそれほど型番が重要ならば、印刷が劣化しやすい水栓の根本に型番のシールを貼るのはいかがなものかと思います。

ここまで考えて住宅業界の思惑に気が付きました。

水栓そのものは長く使えます。
しかし構成しているパーツには壊れやすいものが含まれます。
製造しているメーカーは個別のパーツではなく、水栓本体を買った貰いたいです。
設置する事業者もパーツ交換よりは本体を売った方が利益があります。
従ってパーツを取り寄せるのに時間がかかるという仕組みそのものが、本体の買い替えを誘導する仕組みになっていると思います。

問題なく利用できているものを敢えて交換するには、新機能とか今より便利になるなど相応の理由が必要です。
従って修理・リフォーム業者にとっては設備機器の故障は絶好の営業の機会になります。

メーカーから修理業者に至るまで「一刻も早く直したい」という心理を逆手に取った上手い仕組みを作ったものだと感心しました。

■水回りの修理はトラブルが多い

我が家の場合は大手電力会社によるサポートサービスを利用したので問題なかったのですが、水栓の故障についてインターネットで調べると、緊急対応している修理業者の広告がたくさん出てきました。
目に付いた事業者を会社名で検索すると、「理由を付けて高額請求された」「騙された」という口コミがたくさん出てきます。
被害に遭わないように相見積りを取りましょう、というようなアドバイスも多く見られました。

普段の状態なら冷静に判断できるでしょう。
しかし思いもよらなかった故障に遭遇すると、「すぐ駆け付けます」は非常に魅力的に思えます。
我が家の場合は単に水が止まらないだけだったので、まだ落ち着いて対処できましたが、テレビCMにあるような水が噴き出してくるような状況だと、怪しい業者かもしれないと思いつつも「緊急駆け付け」の文字に縋ってしまうかもしれません。

■思った以上に壊れやすい設備機器

今回ご紹介したキッチンの水栓だけでなく、お風呂や洗面の水栓も同様の理由で壊れやすいパーツが構成されています。
トイレの洗浄便座も故障しやすい機器です。我が家でも水漏れが発生して便座の交換を行ったことがあります。

余談ですが、トイレの洗浄便座は設置から10年経過すると点検ランプが点滅し始めて、業者でないと止められない仕組みになっているのは割と有名な話です。
メーカーとしては有償対応であるものの点検を行うことで突然の故障を未然に防ぐ意図のようですが、先ほど記載した通り、修理・リフォーム事業者にとっては交換工事を提案する絶好のチャンスとなります。点検に来る事業者がきちんとした業者なら良いのですが……。

また、住宅設備のメンテナンスの話題になると一番に挙げられる給湯器ですが、一般に7年くらいで交換と言われているのですが、我が家の給湯器は当たりだったのか、使い方が良いのか、かなりの年数が経過していますが、未だに故障の気配がありません。
もしかすると突然壊れて「給湯器が壊れた!」というレポートをお届けすることになるかもしれません。

ここで挙げた機器は故障が発生すると生活への影響が大きいものです。
もったいないから壊れるまで使うという気持ちはわかりますが、ある程度年数が経過した機器は故障する前に交換した方が良いですし、少なくとも専門業者による点検くらいは行っておいた方が良いと思います。

■住宅購入時に交換してしまうのがお勧めです

住宅の主要構造部や設備機器には目安となる耐用年数が設定されています。
これらの年数を超えたからと言って即座に使えなくなる訳ではないのですが、いつ不具合が生じてもおかしくない状況であることは間違いありません。

壊れるまで利用する、故障してから交換する、は実際に故障を体験してみると、思ったよりも簡単に対処できる問題ではないことがわかりました。
何より悪質な事業者に引っかかるリスクを考慮すると、ある程度年数が経過した機器は前もって交換しておくのが合理的だと思います。
故障が発生してしまうとすぐに直さなければならないというプレッシャーがかかりますが、まだ利用できている段階では、冷静に業者が提示された見積り額や提案を吟味することができるからです。
万が一にも悪質な事業者に引っかかってしまったら大きな損失になってしまいますね。

壊れやすい機器、壊れると生活に支障が出る機器は簡単に判別できますので、売主が直近でリフォームしたとかでなければ、住宅購入時に交換してしまうのが良いと思います。

住宅ローンの商品にもよりますが、設備交換費用やリフォーム費用を住宅ローンに組み込むこともできますので、資金面でも住宅購入時の方が工事を実施しやすいです。
住宅購入後にリフォームする場合、現金で支払いができない場合はリフォームローンを利用することになりますが、リフォームローンは住宅ローンに比べて金利が高いです。

長い目で見ると結果的に購入時にある程度まとめて工事しておいた方が得だった、という状況が考えられますし、何よりせっかくの住宅購入なのに「いつ壊れてもおかしくない」というリスクを意識し続けるのは理想の住宅購入とはほど遠い状態だと思いますので、壊れやすい箇所、故障すると生活への影響が大きい箇所については、割り切って住宅購入時にリフォームしておくのがお勧めです。

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