2020年4月1日から企業や消費者の契約ルールが大きく変わります。民法のうち債権関係を規定する債権法が改正されたためです。2020年4月以降に結ぶ契約については、保証人になったり、住宅の賃貸や商品・サービスを売買したりする場合において、注意が必要です。もちろん、この影響は不動産業界においても及びます。
■保証人の負担額に上限を設け、上限額(限度額)がない契約は無効になる?!
改正民法は2017年に成立し、準備期間があり、2020年4月に施行されます。改正項目は約200項目に及び、かなり問題視する声も聞こえるようになってきました。勿論、ビジネス環境にも影響を及ぼします。その中でも大きく変わるのは保証人の立場であり、「保証」は支払い義務がある人が弁済しない場合に、代わりに履行する義務を指します。
不動産業界においてはアパートなどの不動産を借りる場合に必要な連帯保証人の扱いが変わります。契約時に将来の債務額が特定されないものは「根保証」という。例えばいまは子が家を借りる時に親が賃料を保証する場合などの根保証では、火災時に親が弁済する債務額の上限を定めていません。2020年4月からは保証人を保護するため、上限額(限度額)がない根保証の契約は無効になります。
個人と事業者の契約をまとめた「約款」も明確にする必要があるようです。これまでは民法に約款の規定はなく「約款は契約ではない」と係争になることもありました。いまは電気やガス、保険、クレジットカード、携帯電話など多くの契約に約款がありますが、内容が細かく膨大なため、読まない人も多いと思いますが、改正後は「約款が契約内容になる」と明示してあれば約款への同意が法的に契約になるようです。信義則に反して消費者の利益を一方的に害するような条項は無効となります。
企業による突然の約款変更は、市場環境の変化など合理的な理由があればできますが、この市場環境の変化などの合理的な理由が認められない場合は一方的な変更は出来なくなるため、ビジネス環境下においては慎重に約款を作成するなどの対策が必要です。
■民法改正が及ぼす不動産事業:「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へ
上記にも記載をさせていただきましたが、2020年4月1日に民法が改正されます。民法全体の大改正ではなく、債権法と言われる売買契約や不法行為に関する規定を大幅に見直し、売買契約における瑕疵担保責任という概念に代わって新たに「契約不適合責任」という概念が導入されることになります。これは不動産の売買契約にもとても大きな影響を与えることになるになりますので、ぜひ、この知識は不動産購入予定者の方にも把握をしておいて欲しい事です。
これまで、民法第570条などによって、瑕疵担保責任=商品に何らかの瑕疵(きず、欠陥、不適合などのトラブル)があれば売主がその責任を取らなければならないという文言通りの規定が存在しておりました。その瑕疵担保責任において売主が責任を取る場合のケースは下記の4点です。
<瑕疵担保責任:主がその責任を取らなければならないケース>
① 売買の目的物に普通の注意を払っても発見できないような「隠れた瑕疵」がある場合
②売主は損害賠償の責を負うか、瑕疵が重大で契約の目的が達せられないときは契約解除③瑕疵の発生については引渡し後何年という制限もなく
(実際は民法の債権消滅時効により10年で消滅する・瑕疵発見後は1年以内に請求しなければならない)
④売主の故意・過失に関わりなく責任を負うという無過失責任(売主にはとても重い責任)
※民法第570条はその文言について債務不履行の一般原則(同法第415条ほか)との関係や責任の法的性質が明確でないとの指摘が為されており、また瑕疵についても法文定義は設けられていないため、専ら判例や法律解釈(※心理的瑕疵、環境的瑕疵などが認められてきたがその範囲は一律ではない)によって定義されてきた経緯がありました。
※心理的瑕疵:過去に自殺・殺人・事故・火災などがあり心理的に住み心地に影響する場合等
環境的瑕疵:近隣からの騒音・振動・異臭などによって安心して暮らせない場合等
※「瑕疵担保責任」は任意規定
瑕疵担保責任に関する規定は、多くの判例や法律の解釈によって「任意規定」とされている。つまり強制規定ではないので契約内容によって売主の瑕疵担保責任を制限することが可能だった(瑕疵担保責任の一部免責)。
上記の瑕疵担保責任の範囲では売主の責任は少なくとも消滅時効にかかる10年間は存することになり、それは商慣習上においては極めて長いということから、大抵の場合契約書によって売買契約締結日から3ヶ月程度に制限されていました。また、状況によっては売買締結時点で売主の瑕疵担保責任なしとの契約書(瑕疵担保責任免責契約)も存在するのが現状でした。
現況有姿での販売も通常行われる中古住宅の取引においては、任意規定である瑕疵担保責任は売主とその意向を反映し、その状況を理解した不動産会社によって制限され、これまで買主側は場合によっては『後悔するような不動産』購入になってしまうケースもありました。
■不動産のおける「契約不適合責任」になると実際に何が変わる?!
今回の民法改正は、『買主保護』の意味合いが強く押し出されています。売主の瑕疵担保責任は法定責任から契約責任=債務不履行責任に法的整理が行なわれたため、契約不適合責任は特定物・不特定物の別を問わず適用され(住宅は特定物)、契約不適合の対象は原始的瑕疵に限られないことになります。さらに、買主の取り得る法的手段として、これまでの契約解除、損害賠償請求に加えて『追完請求、代金減額請求』も認められるようになります。
※原始的瑕疵とは:これまで契約締結時までに生じたものを原始的瑕疵といっておりました。改正民法では、契約の履行時までに生じたものであれば契約不適合責任を負うことになります。
『追完請求、代金減額請求』も認められるとは、具体的には、修補(瑕疵を修理し補うこと)、代替物を引渡すこと、不足分を引渡すことを請求できるようになり、またこれらが売主によって為されない場合には、催告して代金の減額を求めることもできるようになります。なお、契約の解除についても事前の催告が必要になるが、今回の改正によって、契約目的の達成は可能だがハードルが高い場合には契約解除できることになり、『解除できるケースが増える』ことが想定されています。さらに、瑕疵自体も「隠れた瑕疵」である必要がなくなったため、買主の善意・無過失は解除の要件として不要になったことも法的には比較的大きな違いとなります。
■買主の権利行使の期間や制限にも違いがある
これまで、瑕疵を理由とした損害賠償請求および契約解除要求の権利行使は、買主がその事実を知ってから1年以内にしなければならないと規定されていました。
民法改正以降は、下記の2点が重要視されています。
<民法改正以降の買主の権利行使期間について>
① 種類または品質に関する契約不適合を理由とする追完請求などの権利行使は、買主が契約不適合を知った時から1年以内に通知する
(不適合の内容を把握することが可能な程度の通知)
②数量や移転した権利に関する契約不適合を理由とする権利行使については期間制限が設けられていない
もちろん消滅時効にかかる可能性はあるが、今回の改正によって債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年が経過した時点だけでなく、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年が経過した際も債権は消滅時効にかかるので、注意が必要です。これが今回の改正で買主に対する唯一の『権利(期間)縮小』と言える部分とのことです。
■不動産の「契約不適合責任」対策にはインスペクション+瑕疵保険提案が有効?!
民法改正によって不動産売買で制限されてきた買主の権利が拡充され、相対的に売主の責任および責任が及ぶ範囲は広くなりますが、従来の引き渡し規定などの特約での不動産売買契約も有効ではあります。しかし、民法改正後の2020年4月以降は、信頼利益だけでなく履行利益(=その契約がきちんと履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益)も損害賠償請求の対象となり、追完請求および代金減額請求も認められるため、“現実的に買主が行使しやすい対抗措置”となる可能性が高いと考えられています。
このようなやり取りを軽減する対策としては、契約不適合責任に対応するには、まず契約書(もしくは物件状況調査の報告書および付帯設備表)に物件の状態・状況を細大漏らさず記載することがとても重要になります。
その為、買主の権利行使によって発生するトラブルによって、無駄な時間を回避するためには、「インスペクション+瑕疵保険」への加入がこれまで以上に有効な手段となりそうです。
仮に契約書に記載されていない隠れた瑕疵が発見されても、事前にインスペクション(=専門家による建物の現況調査)によって特段の指摘がなく、瑕疵保険に加入できる状態もしくは売主がコストを負担して瑕疵保険に加入済みであれば、追完請求にかかるコストを保険の適用によって賄うことができます。またこのような瑕疵保険の制度を活用する事によって、売主サイドも安心してご自宅の売却ができることにもつながります。
売主にとっても、買主にとっても、民法改正後に住宅を売買する際に必要なのは、契約書の記載事項の見直しと、それ以上にインスペクション+瑕疵保険の仕組みを有効活用することが重要なようです。
ぜひ、今後の住宅購入の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕