不動産取引ガイド

住宅購入と出産が重なると何かと大変です

毎年春先は不動産繁忙期を言われ、この時期には不動産に関するニュースがたくさん流れます。
中にはおかしな記事も多く、何気なく目にする記事も受け取り方が非常に重要となります。
不動産に関するニュースは「何をテーマにしているか」をあえて曖昧にしているケースが多いので、ニュースタイトルだけ眺めて記事を流し読むケースが多いと思いますが、さらっと受け入れてはいけません。

今回見つけたこんな記事があります。
審査通った住宅ローン、父親の育休告げたら「お金は貸せない」と事態が一変 「まさかハードルになるとは」
https://withnews.jp/article/f0210130000qq000000000000000W0cd10101qq000022443A

いろいろと突っ込みどころが多いタイトルです(笑)。
「まさかハードルになるとは」って…。
いや、その人はいいんですよ。すべての人が住宅ローンに熟知して住宅購入するわけではないですから。
取引が進んで困ったみたいな書き方ですが、いや、不動産仲介会社が仕事しなさいよ!って言いたいところです。
このニュースはyahooニュースにもピックアップされていたんですが、コメント欄が意外と冷静なので、合わせて確認されることをお勧めします。
※普段はあまり他人が書いた記事を批判するようなことはしないのですが、あまりに記事が恣意的だったので、今回の記事をしたためた次第です。話半分でお読みください。

私はこの業界にどっぷりなので、取引の進め方が悪いでしょ!と感じるのですが、記者の意図としては育休だからローンが組めないのはおかしい!と言いたいようです。
育休・産休でローンが組めなかった体験談募ります、みたいな募集も書かれていますし。
冷静に突っ込みを入れると、育休・産休が住宅ローンに影響するには「当たり前」です。

住宅ローンの審査は主に収入に対して行われます。
金融機関はお金を融資するわけですから、十分な返済能力があるかを確認するわけですね。
ここで育休・産休が問題になります。
通常ローンの審査は前年・前々年の年収をベースに審査を行います。
いくら収入があるのかを支払った税金の額で確認するためです。
制度として育休・産休が取得できたとしても、お休みなわけですから、これまでとまったく同じ給与とは言えないですよね。
育休・産休期間は収入が下がるわけです。
だから金融機関は下がった収入でも返済能力があるかを審査するわけです。
もちろん金融機関によって判断基準は異なりますが、仮に産休後の復職や育休後の収入を企業が証明していたとしても、その家庭で今後子供を産まない保証はないわけで、育休・産休で収入が下がった履歴が判明した時点で、今後も起こり得ることを前提に返済能力を審査せざるを得ないのです。
※いろいろと問題があるので、過去に育休・産休を取得したか?と確認されることはないです。

記事のケースを少し掘り下げています。
本審査が通っているにも関わらず、後から育休が判明して、融資NGとなった、とあります。これは非常に問題です。
まず後から融資NGの判断となっていることから、本審査時には育休のことを開示していなかったと考えられます。
本審査時に育休を前提に審査をしていたら育休を理由に融資NGにはなりません。
審査の主題は返済能力なので、本審査で合格を出した条件と異なる状況になったら、融資できなくなるのは当たり前の話です。

起こり得る別のケースを挙げると、ローン正式審査の承認から融資実行までの間に、新たに借金をしてしまうということがあります。
借金も当然ながら住宅ローンの返済能力に関係する重要な審査項目なので、条件と異なる状況になったら融資をストップせざるを得ません。

このように審査時と融資実行時の状況が変わったと判明した時点で金融機関は融資を止めなければならなくなります。

この記事の俊逸なところは、別の金融機関で慌ててローン審査をしたら融資が下りた、というところです。
「育休中かどうかは聞かれませんでした」って書かれてますが、単なる金融機関に対する背信行為ですね。
とてもじゃないですが記事で紹介するような内容じゃないです。

このケースで問題なのがもう一つあります。
それは本審査が通ってしまっているという点です。
通常不動産売買契約ではローン特約といって、万が一住宅ローンの審査が通らなかったら契約を白紙にしましょうという約束を交わします。
ここが重要なのですが、ローン特約は審査に通らなかった場合に適用されるもので、審査に通ったものの、融資が受けられなかった場合は適用になりません。
今回のケースでは本審査は通って、その後に融資撤回ですから、ローン特約は適用されないと考えられます。
※実際には当事者間の話し合いになるので一概には言えませんが、契約上はそのような状態に陥ります。
融資を受けないと物件代金の支払いができませんから、契約不履行で違約金を請求される事態となりかねないです。
別で手付解除期間を設けることが一般的なので、手付解除期間内であれば手付金放棄、それを超えていたら定めていた違約金の支払い責任が発生します。
怖いですよね。
家を買おうと浮かれていたら買えないどころか何百万も借金になるなんて。
「聞かれなかったから言わなくてもいい」なんて軽く判断できるリスクじゃないですよ。

冒頭に進め方が悪いと書きました。仲介会社は何をしているんだろう、と。
不動産の取引と住宅ローンは不可分です。(現金取引もありますが、多くの場合は住宅ローンが利用されますね)
こういう事態にならないように取引を進めるのが仲介会社の役割です。
ただ、このケースはもう一つ隠された要素がありますので、仲介会社を弁護しておきます。

この記事の方が利用したのはネット系金融機関と表記されています。
担当する仲介会社と提携している金融機関もしくは仲介会社が手続きに関与できる金融機関を利用することが一般的なのですが、こういった金融機関は金利や手数料が最安値ではないです。
他方で安さを売りにするネット系金融機関を選択する方が増えています。
問題なのはネット系金融機関を利用する場合、住宅購入者が直接手続きする必要があり、仲介会社がフォローできない場合が多いことです。
つまりネット系金融機関を選択した住宅購入者の「自己責任」と言うことになります。

さて、ここまで書いたのでお分かりだと思いますが、このケースの住宅購入者は育休という社会問題に翻弄された「被害者」ではありません。
住宅ローンの手配を丸投げするような仲介会社ならまだしも、普通の仲介会社なら住宅ローンの取次を通常業務として行います。
ですから、このケースの住宅購入者は、仲介会社が勧めた金融機関を蹴って、ご自身で探したネット系金融機関を選択したことになります。
単に自己責任で失敗しかけた人に過ぎません。

不動産は高額取引なので違約金も半端ないです。
不動産仲介会社に情報開示することを嫌う風潮があるのですが、仲介会社は取引のプロです。
自己責任のリスクを背負いたくない方は、素直に仲介会社に頼った方がいいと思います。

話が少し変わります。
個人的な経験から、出産というライフイベントと住宅購入は同時期に行わない方が良いとアドバイスすることが多いです。
出産の前後はまとまった期間、奥様が動けなくなります。
そんな最中に引っ越しという重労働を行うのですか?
単身じゃないんです。ファミリーの引っ越しともなると大変な労力です。
そんな大変な旦那様を見ているだけしかできない奥様にも余計なストレスがかかります。

経験者だから自信を持って語れます。
私は3人目がちょうど生まれたタイミングが引っ越しのタイミングでした。(産まれた翌週に引っ越ししました)
妻は里帰り出産で、私一人での引っ越し作業でした。
最近では荷造り・荷ほどきまでやってくれるサービスがあるみたいですが、当然ながら非常に高額です。
荷造りは早めに段取り組めばいいし、運んでくれさえすればあとは何とかなるだろうと、オンシーズンで引っ越し費用が高い時期だったので普通の引っ越しプランでした。
正直舐めてました。
そして引っ越し当日、これまで借りていた部屋と新居を何往復もして、終わった頃には引っ越しそばなんて発想も出ないくらいヘトヘトで、妻が戻ってきたのは1か月半後くらいなのですが、段ボールはほぼ引っ越し時の状態という状況でした。

話を戻します。
出産と住宅購入を同時期に行わない方が良いというのが本記事の趣旨です。
産休・育休が絡むとその時の年収が下がるので、購入できる選択肢が狭くなります。
出産も住宅購入も人生で数回しか経験しない特殊なイベントなので、同時期にこなすとなるとてんやわんやです。
イレギュラー×イレギュラーなので、とてもじゃないですが資産性を冷静に判断するなんて現実的ではありません。
子供が産まれたら家が手狭になるから引っ越ししないといけないじゃないか、と仰られる方も多いと思いますが、子供が産まれることを見越して家を買っておく、もしくは出産が落ち着いてから(それこそ産休・育休が明けてから)家を買うべきです。

昨今は晩婚化の風潮があり、資産的な影響を考慮すると、ライフプランに子育てが組み込まれているならば、子供が産まれることを見越して家を買っておくべきだと言えるのではないでしょうか。(年齢によっては35年ローンが組めなくなり、住宅購入の選択肢が狭くなってしまいます)
いつかは家を買いたい、子供も欲しいとお考えの方は、なるべく早くご夫婦のライフプランを話し合っておくことをお勧めします。
家を買うというアクションを具体的に検討することで、多くのことが明らかになるので、将来の話をするきっかけとして、住宅購入を真剣に検討されるのはいかがでしょうか。

 

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