ネット銀行や大手銀行が、夫婦で住宅ローンを借りる「ペアローン」の開拓に力を入れ始めているようです。2024年、PayPay銀行やりそな銀行は加入者が死亡やがんなどで返済ができなくなった場合に、配偶者のローンも含めて残高をゼロにする団体信用生命保険(団信)を導入します。通常の団信よりも上乗せ金利は大きくなりますが、増える夫婦共働き世代に照準を当てた商品で顧客を獲得する狙いがあるようです。
■都内のマンション購入時に増える『ペアローン』
ペアローンは1軒の住宅を購入する際に、単独の住宅ローンではなく、夫婦それぞれがローンを組むことで借入額を増やす仕組みとなっています。夫婦が互いに相手の連帯保証人になる場合が多く、都心部などの住宅価格が高止まりする中で、単独では手が届きづらい物件を購入する目的で利用が増えているいます。昨今、都内マンションを購入する際には場所にもよりますが、1億円を超える物件も増えている為、このような対応が必要となります。
■『ペアローン』を組む際の注意点について
しかし、『ペアローン』を組む際には注意点もあります。従来の団体信用生命保険(団信)では片方が死亡や病気などで返済が難しくなった場合、保険が適用されるのは働けなくなった人だけとなっていますので配偶者のローン残債は残るといった注意点です。共働きの場合は債務が残る配偶者も子育てなどのため転職や時短勤務で給与水準を下げなければならないケースも多く、返済負担が実質的に大きくなることがあります。
PayPay銀行は2024年6月、ペアローン向けの団体信用生命保険(団信)として新たに死亡やがんで配偶者の残債までゼロにする保険の提供を始める予定です。同様の団体信用生命保険(団信)の提供は邦銀で初めてとなる見込みで、カーディフ生命保険と組む事を発表しています。
通常の団体信用生命保険(団信)よりも上乗せ金利は大きくなりますが、配偶者のリスクまでカバーすることで需要を取り込む狙いがあります。がん以外の病気の場合は、働けない状態が12カ月続くと借入残高をゼロにするといったメニューとなります。
■りそな銀行もスタートするペアローン向け団体信用生命保険(団信)について
りそな銀行と埼玉りそな銀行も10月から、がんと診断された際などに本人と配偶者が抱えるローンの残高をゼロにするペアローン向け団体信用生命保険(団信)の提供を始めるようです。
夫婦のいずれかががんになった場合や死亡時に世帯で返済に窮する事態を防ぐ狙いがあります。住宅価格の高騰に伴うペアローンによる高額借り入れの増加に対応します。第一生命保険も同様の保険商品を開発し、銀行向けに売り込みを始めているようです。
ペアローンは特に若い世代で利用が広がっていますので、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の2023年の調査によると、20~29歳では22.2%がペアローンを利用しているといった回答が出ています。若い世代ほど利用率が高く、全世代の8.9%に比べると割合が突出している状況が伺えます。ペアローンで借りる金額(中央値)は20~29歳が3333万円と、単独ローンに比べて38%多いといった結果となっています。ペアローンと単独を比べた増加率でも、20代が最も高い結果となっています。
https://mirai.smtb.jp/category/column/1712/
借入金額を大きくする需要が高まっている一方、住宅ローン市場全体は伸び悩んでいるようです。住宅金融支援機構によれば、2000年代以降で国内銀行の住宅ローン新規貸出額は大きく変化していません。ネット銀の台頭などで競争が激しくなる中、シェアを拡大するには需要に沿った住宅ローン商品を取りそろえる必要が出てきています。ペアローンむけ団体信用生命保険(団信)は時代の流れにあった商品で、一定の需要が見込めると発表している専門家もいるようです。ネット銀行などは金利の引き下げで競争を激化してきましたが、今後は保障内容でも差別化を図る流れが出てくるとみて考えられています。今回の団体信用生命保険(団信)の提供内容はこのような時勢を鑑みてのものとなります。
■住宅ローンの延滞状況について
生活の基盤となる住宅を担保にとる住宅ローンは銀行にとって優良な融資先となりますが、住宅価格が高騰するなか、延滞などの比率はじわりと上昇している為、リスクも増加している傾向にあります。住宅金融支援機構によると、フラット35で実質的な貸し倒れや延滞などになった債権の比率は2022年度に0.61%となり、3年前に比べて0.11ポイント上昇しているといったデータが発表されています。
住宅金融支援機構によれば、住宅ローンのリスクとして金利上昇局面での延滞増加を挙げる金融機関は2023年度に46.2%と、前年度から6.5ポイント上がり、大きな金額を借り入れるペアローンで団体信用生命保険(団信)を充実させるのは、物価と金利の上昇局面で銀行自身のリスクを抑える意味合いもあります。住宅ローンを借りられる方もこのような制度を上手く活用できれば、万が一の際のリスクヘッジにも役立ちます。
ぜひ、今後の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕