不動産取引ガイド

住宅ローンはこのまま「変動金利」を選択して大丈夫か?

日本銀行のマイナス金利政策解除を受けて、家計への影響が大きいのは住宅ローンと言われてきました。しかし、通常とは異なり、半年以上が過ぎました。住宅ローンは大きく分けて、返済中の金利が一定期間や完済まで変わらない固定型と半年ごとなどに金利を見直す変動型があります。特に注意が必要なのが、変動型を現在借りている世帯と言われます。金利が今後上昇した場合に返済負担が増えて家計が行き詰まるリスクに備えるなら、固定型に借り換えるのが選択肢となります。

■マイナス金利政策解除後の住宅ローンは「変動型」が選ばれている・・・!

マイナス金利政策が2016年2月に導入されて以降、変動型の金利はほぼ一貫して低下してきました。2024年3月は大手銀行で年0.3~0.4%台、ネット銀行では様々な割引を利用すると年0.1%台まで下がる商品もあり、金利の低下とともに変動型を選ぶ人は増加しました。結果、政府系金融機関である住宅金融支援機構が提供する「フラット35」の利用も低調で推移しています。国土交通省の直近の調査によると、貸出残高のうち7割近くを変動型が占めているようです。

変動型の金利は各銀行が決める短期プライムレート(短プラ、優良企業向けの1年未満の貸出金利)に一定幅を上乗せした「基準金利」から、借りる人の収入や購入物件などに応じて「優遇幅」を差し引いて決まることが多くあります。

短プラは日本銀行の政策金利の影響を受けやすいと言われ、日本銀行は当面緩和的な環境が続くとしており、政策金利が急ピッチで上がらなければ変動型への影響は限られそうと判断していました。結果、約半年がたった現在でも大きな影響は出ていません。毎月の返済額の見直しは原則5年ごと、返済額を引き上げる際は上限を25%増までとする「5年・125%ルール」がある銀行も多く、仮に変動金利が上昇しても、月の返済額がすぐに増えることは考えにくいとの見方は少なくありません。

しかし、住宅ローンの返済は20年、30年といった長期にわたるケースが多く、物価上昇率2%の状態が持続し、日本銀行が金融緩和を徐々に縮小すれば変動金利も上昇に向かうと指摘される専門家もいます。物価上昇率が2%なら変動金利も2%程度の上昇があり得ると想定し、家計のリスク管理をするべきです。

■物価上昇率2%の状態が持続した場合は「固定型」が選択肢になる!

変動金利が現在の水準から2%程度上昇すると、ここ数年内に借りた人の適用金利はおおむね2%台前半から半ばになるとみられます。毎月の返済が厳しくなる世帯は、金利タイプを変動型から固定型に変更することが一案になります。

固定型は金利が完済まで一定の全期間固定型、当初10年などは一定の固定期間選択型があり、住宅金融支援機構が手掛ける全期間固定型「フラット35」の9月の金利は年1.62%(融資率9割以下)が最も多く、2%を下回っています。民間の商品にも同水準の金利があります。

全期間固定型を利用できるのは一般に新たに借りる場合なので、変更するにはローンを借り換える必要があります。具体的には別の銀行で全期間固定型を借り、変動型を全額返済するという方法です。固定型は通常、変動型より金利が高いため借り換えで返済額は増えるが、金利上昇時の返済額の増加幅を抑えられます。では借り換えで月の返済額がどう変わるのでしょうか。4000万円を期間35年、年0.5%の変動金利で借り(元利均等返済)、3年後に年1.8%の全期間固定型にする例でみよう。借り換え後の月返済額は約13万円と借り換え前の10.4万円に比べ3万円弱増えます。

しかし変動金利が当初の借り入れから5年後に2%上昇し、返済10年後まで同じ水準が続いたとすると、月返済額は逆転します。5年・125%ルールのある金融機関では11年目以降の返済額が月13.9万円で、借り換え後の返済額13万円を0.9万円上回ります。

重要なのは変動金利の上昇が仮に続いても、全期間固定型に借り換えた後の月返済額は完済まで変わらないことです。変動型のままなら、金利上昇とともに負担が増えます。もちろん、景気や物価動向などを背景に変動金利が低下し月返済額が減る可能性もあるという事です。

■住宅ローンの選び方、「変動型」より「固定型」の方が将来を計画しやすい!

家計の長期計画を考える際、固定型で月の返済額が確定する効果は大きいと考えられています。金利上昇で変動型の負担が膨らみ、返済が行き詰まったり教育費や老後資金などの計画が大きく狂ったりすることを避けやすいという事です。借り換えをする際は固定型と変動型の併用もできるため、家計の状況などに合わせて変動型の残高を調整しておきたいです。

ローン残高が多く、残りの返済期間が長いほど借り換え効果は大きくなります。逆に返済期間が10年以下の場合は、借換費用の負担が相対的に重くなります。年1.8%の固定型に借り換える試算例でも、月返済額は2%上昇時の変動金利を上回りやすいです。

残りの期間が約20年以下なら、全期間固定型より金利が低い10年などの固定期間選択型が選択肢です。固定期間終了後の返済期間が短ければ金利変動の影響は小さいです。変動型から固定期間選択型への変更は同じ金融機関でも一般に可能で、その場合は費用も少なく済みます。

足元の変動型と固定型の金利差では借り換えで増える月返済額が少なくありません。米国の利下げなどから、年後半に固定金利が下がる可能性もあり、借り換えるなら金利の低下局面を待つのも一案になるようです。もっとも変動金利が2%上昇しても毎月の収入で返済額の増加をカバーできるなら、変動型を継続する選択肢もあります。月々の家計のやり繰り、長期の資金計画などを踏まえて慎重に検討したいものです。

今後の参考にお役立てください。

法人営業部 犬木 裕

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