近年、日本では自然災害が頻発しており、特に水害や土砂災害などは地形からその危険性をある程度推定することが可能です。不動産購入を検討する際には、お住まいになるエリアの地盤の形状を把握し、土地のリスクを事前に調査することが極めて重要です。この目的のために、国土地理院が提供している様々な地形図が役立ちます。
■国土地理院の提供する主要な地形図とその活用
危険な場所を見分ける上で特に有用なのは、国土地理院の「色別標高図」、「土地条件図」、そして「治水地形分類図」といった地図です。これらの地図は、地形ごとに色分けされており、視覚的に分かりやすいのが特徴です。
• 色別標高図(http://www.gsi.go.jp/common/000061812.jpg など)
この地図は、土地の標高を一目で把握できるように作られています。例えば、東京都心部を見ると、山手線が走る辺りを境に「西高東低」、つまり西側が高く東側が低い地形であることが明確に分かります。具体的な例として、渋谷は地名に「谷」の文字が含まれる通り、周辺を「青山」「円山」「代官山」といった「山」のつく地名に囲まれた谷地であることが色別標高図からよく理解できます。このため、地下鉄の銀座線が地上に顔を出すという特徴的な光景が見られるのです。標高を知ることは、水害リスクなどを想定する上で基本的な情報となります。
• 土地条件図
土地条件図は、防災対策などを目的として作成された地図で、2万5千分の1地形図を基盤に、主に山地、台地、低地といった地形分類が表示されています。これにより、その土地がどのような地形的特性を持っているのかを俯瞰的に把握することができます。
• 治水地形分類図
治水地形分類図は、地形と地盤の関係、特に沈下に対する安全性を評価する上で非常に重要な情報を提供しています。この地図では、土地のタイプごとに地盤の安定度が以下のように分類されています。
<沈下に対する安全性が高い(○)>
▪ 台地・段丘: 比較的硬い地盤で構成されることが多く、安定性が高いとされます。
▪ 扇状地: 山間部から流れ出た土砂が堆積してできた扇形の地形ですが、一般的には安定しているとされています。
▪ 切土地: 土地を削って平坦にした場所で、元々の地盤を露出させているため、沈下のリスクは低いとされます。
<沈下に対する安全性がやや低い~注意が必要(△)>
▪ 自然堤防・砂洲・砂堆・砂丘: 河川の氾濫によって形成されたり、風や波によって堆積した砂でできた地形であり、比較的安定している部分もありますが、砂質地盤のため液状化のリスクや、場所によっては水を含みやすい特性から注意が必要な場合があります。
<沈下に対する安全性が低い~危険な可能性が高い(△~×)>
▪ 凹地・浅谷: 地形的に低く窪んでいる場所や浅い谷は、水が溜まりやすく、軟弱な地盤である可能性が高いです。
▪ 谷底平野・氾濫平野・後背低地: 河川沿いやその背後に広がる平野部で、過去の洪水によって土砂が堆積した場所が多く、地盤が軟弱で沈下の危険性が高いとされます。
▪ 海岸平野・三角州: 海岸沿いや河口付近の低平な土地で、沖積層と呼ばれる軟弱な地盤が広がっていることが多く、沈下や液状化のリスクが高いです。
▪ 旧河道: かつて河川が流れていた場所で、泥などが堆積しているため、地盤が非常に軟弱である可能性が高いです。
▪ 高い盛土地面: 土地を盛り上げて造成された場所で、適切な造成が行われていない場合や、盛り土の厚さによっては、沈下の可能性があります。
▪ 埋立地・干拓地: 海や湖沼、湿地などを埋め立てたり、水を抜いて土地にした場所で、地盤が非常に軟弱であり、沈下や液状化のリスクが特に高いとされています。
■土砂災害リスクと土地の造成の有無の確認
近年は豪雨による土砂災害も相次いでおり、広島での土砂崩れは記憶に新しい事例です。このような土砂災害の危険性も、地形図を見ることで事前に察知することが可能です。特に重要なのは、斜面地が昔からの自然な地形なのか、それとも人工的に造成された土地である可能性が高いのかを見極めることです。これを調べるためには、新旧の地形図を比較することが非常に有効です。埼玉大学の谷謙二先生が作成された「今昔マップon the web」(http://ktgis.net/kjmapw/)のようなツールは、過去の地形図と現在の地形図を重ねて見ることができるため、土地がどのように変化してきたかを詳細に追うことができ、非常に推奨されています。土地の高低差や、埋め立ての有無は地形図を見れば比較的容易に分かりますが、造成の有無はそれだけでは見分けにくい場合があります。しかし、上記のような新旧の地図を丹念に古い順に変化を追っていくことで、その土地に人の手が加えられていること、すなわち造成が行われていることが分かることがあります。場所によっては、こうした造成された土地が注意しなくてはならない危険な場所であると判明する場合もあります。
首都圏では、特に横浜方面のように土地の起伏が激しい場所が多く、地形図や実際の現地の状況から危険な場所が存在することが推察されます。さらに、自治体などによって作成されている「急傾斜地崩壊危険区域」や「土砂災害マップ」といった公式の情報も必ず確認すべきです。自然災害の危険性を考慮するならば、もし検討しているエリアがこれらの危険区域に該当している場合は、敢えてその土地を選ぶ必要はないと考えるのが賢明だと思います。
自身の住まいとなる場所ですから、面倒がらずに一度は徹底的に調べるべきです。お住まい探しをするエリアで、どのような危険がある場所(土地)なのかをきっちり知ることは、危険を想定し、危険に備える姿勢で住むために非常に大切です。災害はいつ起こるか分かりません。地図を活用し、土地の特性を深く理解することで、より安全な住まい選びに繋がります。今後の参考にお役立てください。
法人営業部 犬木 裕