マンションを取り巻く環境は大きく変化しています。
築年数の経過による老朽化、管理組合の担い手不足、災害対策の重要性の高まりなど、多くの課題に直面する中で、適切な管理体制の構築が資産価値の維持・向上において極めて重要な要素となっています。
■マンション管理の法制度をめぐる動き
国土交通省は2016年3月に「マンションの管理の適正化に関する指針」と「マンション標準管理規約」を改正しました。
その後も社会情勢の変化に応じて継続的な見直しが行われており、2021年には管理計画認定制度が創設されるなど、マンション管理の適正化に向けた取り組みが強化されています。
マンション管理規約は、いわばマンション内の憲法とも言える重要な存在です。
区分所有法がマンションを含むすべての不動産に適用される基本法である一方、「ペットの飼育」「住戸の用途制限」「管理費・修繕積立金の負担方法」といった個別具体的な事項については、各マンション管理組合が独自に管理規約で定めることになっています。
■管理運営体制の多様化と専門性の向上
2016年の改正で注目されたのが、理事長を含む役員への外部専門家の登用を可能にした点です。
高齢化や単身世帯の増加により、区分所有者だけで役員を選出することが困難になっているマンションが増えています。
マンション管理士や弁護士などの専門家が理事として参画することで、専門的知識に基づいた適切な管理運営が期待できます。
ただし、外部専門家の活用には留意点もあります。
利益相反取引の防止措置を講じることや、監事の権限を明確にして適切な監視体制を構築することが重要です。
外部専門家と管理会社との癒着や、区分所有者の意向が反映されにくくなるリスクにも配慮が必要です。
■共用施設の効率的運用と経済的自立
駐車場については、従来の固定利用から入れ替え制への移行や、空き区画の外部貸出しを認める規定が整備されました。
自動車保有率の低下により駐車場が余剰となるマンションが増える中、外部貸出しによる収入確保は管理組合の財政基盤強化につながります。
ただし、外部貸出しで収益が発生する場合は、収益事業として課税対象となる可能性があるため、税務上の注意が必要です。
近年では、駐車場をカーシェアリングスペースや宅配ボックス設置場所、電気自動車充電設備の設置スペースとして活用するなど、時代のニーズに応じた柔軟な運用が広がっています。
■議決権割合の新たな選択肢
従来、総会での議決権や敷地の共有持分は専有面積に比例して配分されるのが一般的でした。
しかし、2016年改正では、新築物件において住戸の価値割合に連動した設定も選択肢として示されました。
同じ面積でも階数や方角、設備のグレードにより住戸の価値は大きく異なります。
価値割合での配分は公平性の観点から合理的とも考えられますが、一方で価値評価の客観性や時間経過による価値変動への対応など、運用上の課題もあります。
現状では面積基準が主流ですが、タワーマンションなど住戸間の価値差が大きい物件では、今後議論が深まる可能性があります。
■災害対策と緊急時対応の強化
大規模災害の頻発を背景に、災害時や緊急時の対応力強化も重要なテーマとなっています。
改正では、緊急時に理事長が専有部分に立ち入ることを可能とする規定や、応急修繕を理事会決議で迅速に実施できる仕組みなどが示されました。
また、専有部分の修繕であっても、共用部分に影響を及ぼす可能性がある場合には、理事会の承認を得て実施できる規定も整備されました。
配管の水漏れや外壁に関わる工事など、迅速な対応が求められる場面で有効です。
■透明性の向上と情報開示
管理組合の運営透明性を高めるため、大規模修繕工事の実施状況や予定、修繕積立金の積立状況などの情報開示を促進する条項も整備されました。
購入検討者や金融機関が管理状態を適切に評価できるよう、情報の可視化が進んでいます。
2022年からは、管理計画認定制度により、一定の基準を満たすマンションが自治体から認定を受けられるようになりました。
認定マンションは適切な管理が行われている証明となり、資産価値の維持・向上につながると期待されています。
■コミュニティ形成と生活管理
防災・防犯・美化・清掃などのコミュニティ活動が管理組合の業務として可能であることも明確化されました。
居住者間のコミュニケーションは、災害時の助け合いや日常的なトラブル防止に重要な役割を果たします。
判例の蓄積を踏まえ、管理組合が実施できる業務の範囲が再整理されたことで、各マンションは自らの実情に応じた活動を展開しやすくなりました。
■マンション購入時の確認ポイント
中古マンションを購入する際には、以下の点を確認することをお勧めします。
・管理規約の内容(ペット飼育、用途制限、民泊規制など)
・修繕積立金の積立状況と大規模修繕の実施履歴・予定
・管理組合の運営状況(総会・理事会の開催頻度、議事録の整備状況)
・管理計画認定の取得状況
・長期修繕計画の有無と見直し状況
・外部専門家の活用状況
適切な管理が行われているマンションは、将来にわたって快適な住環境が維持され、資産価値の下落リスクも低減されます。
管理体制の確認は、物件の立地や価格と同様に重要な判断材料となるのです。
マンション管理を巡る制度は今後も時代に応じて進化していくでしょう。
居住者一人ひとりが管理への関心を持ち、積極的に参画することが、豊かなマンションライフと資産価値の維持につながります。
法人営業部 犬木 裕












