既存住宅売買瑕疵保険シリーズ4回目です。
今回は売主が宅建業者の場合の瑕疵保険ついて説明します。
売主が宅建業者の場合は、売主である宅建業者が瑕疵保険の手続きを行わないと保険に加入できません。
建物の状態というよりも、取引における交渉の進め方が重要となりますので、売主である宅建業者であるリノベーション物件などを検討している場合はぜひ内容を把握してください。
宅建業者である売主が負う最低2年の瑕疵責任のための保険
それでは保険商品別に具体的な手続きの進め方などを説明していくよ。
まずは売主が宅建業者の場合だ。
保険の概要は下記の図のようになる。
売主である宅建業者が保証するという仕組みになっていますね。
そもそも売主である宅建業者は最低2年間の瑕疵責任が義務付けられているから、それに対する保険という理解で問題ないよ。
でも瑕疵保険って最長5年ですよね?
良いところに気が付いたね。
売主が宅建業者の場合の瑕疵保険は2年と5年に分かれている。
最低限の2年で済ませることもできるわけだ。
せっかくなんで5年がいいですよ~。
そうは言ってもあくまで任意の制度だから、そもそも保険に加入してくれるだけでもありがたいと考えた方が良いね。
期間追加分のコストを買主が負担するみたいな交渉はできなくはないと思うけど。
売主が宅建業者の場合の瑕疵保険は、保険の安心もさることながら、住宅ローン減税の築後年数要件緩和に利用できるし、住まい給付金を利用するための条件にもなっている。
つまり、瑕疵保険が付保されるというのは、買主にとって非常にメリットが大きいから、当然ながら売主としてもPRに活用したいところなんだけど、実際にはあまり利用されていない。
どうしてなんですか?売主にも買主にもメリットがあるので、入った方がいいじゃないですか。
その話は今回の後半で説明するよ。
売主である宅建業者が所有権移転までに手続きを行う
それじゃあ手続きの流れを説明するよ。
まず買主の立場でやることは「買付申込の段階で瑕疵保険の加入を条件に交渉する」だけだ。
たったそれだけですか?
売主が宅建業者の場合は、売主である宅建業者が加入しないってなると保険に加入する方法がなくなるんだ。
不動産売買契約の後じゃダメなんですか?
あまりおススメしない。
瑕疵保険の加入を不動産売買契約の前提条件にすれば、万が一、売主が手続きに失敗して保険に加入できなかったとしても、売主の責任を追及できるからね。
不動産売買契約の後になると、瑕疵保険の話は買主の単なるお願いに過ぎないから、面倒だからと言って対応してもらえないことも考えられる。
わかりました。
買付申込の時に交渉が大切なんですね。
ここから先は宅建業者が行うフローになるから、興味のない人はざっと流してもらって構わない。
結論としては、手続きには結構時間がかかるから、不慣れな事業者がやろうとすると失敗する可能性が高いというところか。
失敗って…
前提として、売主が宅建業者の場合の瑕疵保険は、所有権移転までに手続きを完了する必要がある。
次回説明する個人間売買の場合は、引き渡し後リフォーム特約という、所有権移転後でも大丈夫な方法があるけど、宅建業者の場合はそれがない。
つまり、所有権移転までに間に合わなかったら保険に加入できない、ということですね。
その通り。
不慣れな事業者だと、火災保険なんかと一緒に考えていて、申し込みさえすれば加入できると勘違いしている人が多い。
実際には検査を実施して合格する必要があるわけで、事前に調査していないととんでもないことになる。
上記は基本的な流れになる。
実際にかかる日数はその時の混み具合によって変わるけど、瑕疵保険のように締め切りのある手続きはあまり日数を少なく見積もらない方が安全だね。
意外とかかりますね。
そうだね。
宅建業者が申し込みをして、保険法人がそれを受理して、保険法人が検査員を派遣する。
ここまでで3社が関係しているよね。
協業の業務フローは関係者が増えれば当然その分時間がかかることになる。
じゃあ、1か月くらい時間を見ておけばいいってことですか?
ところがそうじゃない。
瑕疵保険に加入するためには、検査に合格する必要がある。
もし検査に合格しなかったら…
改修工事が必要なんですね!
瑕疵保険の検査は劣化の調査だから、検査に引っかかったといっても、防水関係のひび割れを補修するなど軽微な改修で済む場合が多い。
でも重要なのが、改修工事後は再検査が必要だということ。
売買契約から1か月くらいで所有権移転をするのが一般的だから、売買契約後に検査に引っかかったら間に合わない場合が多い。
瑕疵保険は怪しい買取再販物件を見分ける目安になる
業務フローを見てもらうと、普通の事業者だったら、売買契約に関係なく、瑕疵保険にいつでも加入できる状態にすると思うよね。
買主にメリットが大きな話は、事業者としても無視できないはずです。
個人的な見解だけど、事業者が売買瑕疵保険の対応を予め行わない理由は3つあると思う。
一つ目は義務でないからだ。
法的にやらなければならないわけではないので、無駄なことはやらないということですか?
中には手間がかかるから嫌がる会社もあるだろうが、やらなくてもいいことをあえて先んじてやらない、というのが良い表現かもしれない。
随分後ろ向きですね。
無駄を省くのは企業の営業活動でも重要なことだよ。
瑕疵保険のメリットを感じられない会社は無駄だと判断するんだろうね。
でも買主が求めたら結局対応するんじゃないですか?
そうだね。
そして言われてから手続きするのは、先んじて手続きするのに比べて何倍も手間がかかるのが皮肉なところだ。
締切に追われるわけですね。
二つ目は費用の問題だ。
チュースケ君、瑕疵保険の費用って誰が負担するんだろう?
それは、申込者である宅建業者じゃないんですか?
じゃあ質問を変えよう。瑕疵保険でもっともメリットが大きいのは誰だと思う?
それは・・・買主ですね。
受益者負担という言葉がある。
メリットがある人が費用を負担するのが筋の通った話だ。
ただ、手続き上、申込者である宅建業者に瑕疵保険法人は費用を請求するよね。
瑕疵保険の費用を買主にきちんと説明できない宅建業者は、保険費用を一方的に負担しなければならないと捉えてしまい、制度利用に後ろ向きになってしまう。
でも売主にもメリットがあるんですよね。
じゃあ、保険費用くらい業者が負担するべきなんじゃないですか?
2年の瑕疵責任については保険に関係なく売主である宅建業者は法的な責任を負担していることになる。
そのリスクをどう回避するかは売主である宅建業者が選ぶことだね。
ただ、何でもかんでも事業者に求める考えは、誤った判断基準になる原因となるからあまりお勧めしないなぁ。
お金のことはきちんと整理した方が良いよ。
わかりました。
最後になるが「そもそも瑕疵保険に入れない」という理由が考えられる。
リフォーム済みならまだしも、宅建業者による買取再販物件でも、リフォームなしで取引されることもある。
何らかの劣化があって、補修しないと保険に入れないとしたらどうかな?
事業者なんだから補修するべきなんじゃないですか?
それは正論だが、正論では「賢い住宅購入」を達成することはできないよ。
悪意のあるケースでなくても、微妙な状態って多いだろ?
ひびは入っているけど雨漏れはない、とか。
法律で定める瑕疵に該当しないのであれば、補修しなくても問題ない。
じゃあ2年間様子を見て、事故が起きたら直す、ということですか?
そのように判断する事業者もいると思うよ。
事故の発生確率と補修費用を考えれば、リスクの方を取る事業者がいてもおかしくないね。
この瑕疵保険に入れないの理由には、もう一つ別の側面がある。
それは事業者が意図的に隠蔽したい場合だ。
明らかな劣化があるのに、表面だけ直して販売したい、そう考える事業者がいてもおかしくない。
酷いですね。
意図的に隠蔽というのはバレたらダメージも大きいから極端な表現だけど、瑕疵保険の検査員は第3者の建築士になるから、自分たちは大丈夫と判断したものでも、ダメだと判定されてしまう恐れがある。
粗さがしが嫌なんですね。
この制度は粗さがしこそ買主にとって価値のある仕組みなんだけど、売主からすると面白くないわけだ。
売主が宅建業者で瑕疵保険に加入してもらえない物件は購入を見合わせた方が良い
それじゃあ瑕疵保険に入ってもらえない物件はやめた方がいいということですか?
おススメはしないね。
少なくとも住宅ローン減税などの制度は諦めなきゃいけないし、それらの金銭的なメリットを上回る魅力があっても、買ってから雨漏れとか嫌だろ?
自己責任の取引はなるべく避けた方が無難だよ。
初めに太郎さんが言っていた買付申込時に交渉というのは、買ってよい物件かどうかの判断材料という訳ですね。
売主が宅建業者の場合は、瑕疵保険加入の有無は本当に重要な判断材料になると思うよ。
特に注意したいのがリフォーム済み物件だ。
リノベーション物件とも言われる。
どうしてですか?すごくきれいでおしゃれな物件も多いですよね。
確かに事業者が買い取ってリフォームして再販する物件は、見た目がきれいな物件も多い。でも瑕疵保険の基準すらクリアできてなくて、中だけきれいにしてるって、いろいろ判断を誤っている。
当たり前のように瑕疵保険入ってほしいですよね。
旧耐震など構造的な問題で瑕疵保険に加入できない場合もある。
いずれにせよ、宅建業者が売主で瑕疵保険に加入してもらえない物件、特に保険加入を断る理由が意味不明な場合は、怪しい物件だと警戒した方が良いね。
意味不明な断り文句って…
「会社で加入しないっていう方針なんです」
「本社が地方なので手続きが間に合いません」
「そういう対応は一切お断りしてるんです」
なんですか?それ?
実際に言われたことがある断り文句。ひどいもんだろ?
瑕疵保険という判断基準を使うことで、こういった酷い事業者を区別することができるから、そういった意味でも瑕疵保険の制度を活用することをお勧めするよ。