不動産取引ガイド

耐震改修済み物件は【お買い得】なのか?

今年も確定申告の時期を迎え、住宅ローン減税に関するお問い合わせが増えてきました。
※住宅ローン減税については、過去にもいくつか記事を書いているのでお時間のある時に参照してください。

先日いただいたお問い合わせで印象的だった内容をご紹介します。

その物件は「売主が過去に耐震改修を行ったと言っている。耐震基準適合証明書を発行してもらえないか」という内容でした。

耐震改修済みの物件なので、一見すると【お買い得】のように思えますが、実はそんなに簡単な問題ではありません。
耐震改修済みの物件は、耐震改修が行われていない物件よりも遥かにやっかいな問題を抱えているのです。

■耐震基準適合証明書の意味

耐震基準適合証明書は建築士事務所に所属する建築士などが発行する証明書で、耐震診断を実施し、定められた耐震基準を満たすことを証明する書類です。

建築士が発行する証明書は、一般の方が思うより遥かに重たい責任が課せられます。
いい加減な証明業務は自身の資格はく奪にとどまらず、個人へも刑事罰が及ぶ非常に重たい業務なのです。

耐震基準適合証明書を発行するということは、その家屋の耐震性能について証明者が責任を負うという意味を持ちます。
単に調査業務を行って書類を書くだけの業務ではありません。

■耐震改修済みの物件とは?

耐震改修と言っても様々なケースが考えられます。すべての案件で耐震基準を満たす改修工事が実施されていれば良いのですが、耐震改修には多額の費用がかかる場合もあるので、耐震基準には満たないものの、最低限の改修工事だけ実施するという考え方があります。
つまり、一概に耐震改修済み=耐震基準適合証明書が発行できる状態とは言えません。
分類するとおおよそ下記のパターンが考えられます。

1 耐震基準適合証明書が発行できる水準の耐震改修が行われて、設計や工事の履歴が残されている場合

実施された耐震改修工事が耐震基準を満たすレベルのもので、工事に関する記録が残されている場合は、耐震基準適合証明書を取得できる可能性があります。
書類があるからと言って手放しで発行されるものではないのですが、現地調査を行って、劣化など大きな問題が発見されない場合は、その家屋の耐震性を証明することが可能です。

ただ、このケースで当社にお問い合わせをいただくことはあまり考えられません。工事の履歴が残されている場合は、当時工事に関わった建築士事務所へ問い合わせをするのが最も合理的だからです。
※当社へお問い合わせいただくのはインターネットで検索される方が多いのですが、履歴がある場合は、まずはそこへ問い合わせをするのが妥当と思われます。

2 耐震基準適合証明書が発行できる水準の耐震改修が行われたが、設計や工事の履歴が残されていない(または不足している)場合

このケースが最も厄介です。履歴がない以上、過去に行われた耐震改修工事を認める根拠がないからです。
過去に行われた耐震改修工事をなかったものとして、改めて改修工事を実施するという考え方もあるのですが、内装を全部解体する【スケルトンリフォーム】を実施するなら可能性はあるのですが、すべての内装を解体しない場合は、改修工事のやり直しは困難です。
耐震改修工事は単に強ければよいというものではなく、全体のバランスを見ながら施工箇所を選択する必要があるからです。
分かりやすく表現すると【お手上げ状態】と言えるケースです。

唯一可能性があるとすると、当時施工に携わったリフォーム会社や建築士に対応してもらう方法が考えられます。
履歴がないと証明が難しいのは変わりませんが、全ての履歴はなくとも、全く記録が残されていないというのも考えにくい状況です。なにより、当時利益を頂いて施工に携わった訳ですから、自分たちが行った施工の責任は負うべきだと思います。

3 耐震基準適合証明書が発行できる水準の耐震改修が行われていない場合

耐震改修工事と名の付くリフォームは行ったものの、耐震基準適合証明書が発行できる水準ではない、というケースはそれほど珍しいものではないかもしれません。
予算の関係で、理解して最低限の工事を選択するケースもあります。ただ、この場合は、少なくとも工事を発注した人(売主)は、耐震基準適合証明書を発行できるレベルの工事ではなかったことを自覚しているはずで、売却に当たって「耐震改修工事済み」とはなかなか言えないと思います。

問題は工事を発注した人(売主)が、基準に見合う工事を行ったと錯覚しているケースです。
費用を支払った売主さんには申し訳ないのですが、実施された改修工事を再評価することは難しく、やり直し工事が成立すれば良いのですが、場合によっては実施した工事が悪影響を及ぼしていることすら考えられます。

「悪質リフォーム問題」を覚えているでしょうか。有名な事件としては埼玉県の高齢世帯に対して、実際には効果がほとんど見られない機器や金物の設置を耐震工事として、繰り返し実施していた事件があります。
このような詐欺(または詐欺まがい)の工事の多くは依頼者が気付かない床下や小屋裏に設置するという特徴があり、未だに耐震改修工事を実施したと信じている方がいるのが問題になります。

「悪質リフォーム問題」ほどでなくても、リフォームついでに、耐震診断など必要な手続きをせずに、良かれと思って強い構造材を使うリフォーム会社も存在していて、基準に満たない耐震改修工事の物件は非常に厄介な問題を抱えている物件と言えます。

デメリットの方が大きいので、住宅ローン減税を諦めるのはもちろん、2・3の物件の購入は見合わせた方が無難とも言えます。(あえて問題を抱えた物件を買う理由がありません)

問題のある物件の見分け方は実は簡単です。
適切に工事がなされた物件は、耐震基準適合証明書(もしくは同等の書類)が発行されていることが想定され、証明書はなくとも、当時の施工履歴は残されていると期待できるからです。
逆に、耐震改修済みと聞いたものの、当時の履歴がない場合は要注意です。耐震改修工事の履歴が残されていないことは、大きなマイナスポイントになります。

耐震改修済みという売り文句に惑わされてはいけません、というお話でした。

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