バス路線の廃止や減便が全国で相次いでいます。新型コロナウイルス禍では利用客が離れ、全国の路線バス事業の9割が赤字になった事はあまり知られていません。苦境は続き、不採算路線の見直しが避けられない状況にあり、東京や大阪などの大都市圏も例外ではありません。自治体はさらに公費を投入して「生活の足」を守るべきなのか、決断の岐路に立たされています。
■1000億円を超す赤字が2年続いており、バス路線は崩壊の危機?!
2020年、2021年度と全国のバス会社で合計1000億円を超す赤字が2年続き、人手不足を解決するには賃上げしかありませんが、その為の原資が無いのが実情です。
2021年度は地域別の全21ブロックで赤字となり、企業別でも218社中、黒字は13社にとどまっています。大都市圏も厳しく、東京都豊島区では国際興業が池袋駅東口発着のバスで平日昼間などの運行をやめ、大阪府富田林市などでバスを運行する金剛自動車は2023年12月20日にバス事業から撤退しました。京阪バスも2024年春までに大阪府守口市などで計16路線を廃止する事を発表しています。
この10年で完全廃止のバス路線は1万5000キロのも及んでいるようです。全バス路線の3%にあたる規模となり、路線は維持して減便するケースも多く、バスの総走行距離は20年度、18年ぶりに30億キロを割り込みました。
いずれも運転士を確保できなくなっていることが背景にあり、自動運転化で解決できるとの話でしたが、実現化には時間が掛かっているようです。日本バス協会は30年度に3万6000人足りなくなると試算し、その理由は低賃金の実態があります。バス運転手の年収は2022年に399万円と全産業平均(497万円)より2割少ない事が挙げられます。時間外労働規制に伴う「2024年問題」で人材の取り合いとなる大型トラック運転手の477万円よりも低賃金の実態となります。
■不動産購入予定エリアに「コミュニティーバス」が走っているのは良い事なのか?!
路線廃止を補うため、自治体が中心となったコミュニティーバスの導入事例は21年度で3717件と10年で3割以上増えました。その実態は多くが民間に運行を委託するため、結局は運転士を確保できなければ撤退は避けられません。東京都足立区のコミュニティーバス「はるかぜ」は委託先が人手を確保できないとして西新井・舎人線の運行を2024年3月末で廃止する事が発表されています。
みちのり傘下の茨城交通社では2022年10月、JR高萩駅(茨城県高萩市)周辺を走る路線バスで朝夕を除く昼間に予約型の運行へと切り替えているようです。新サービス「MyRideのるる」は運賃が300円、アプリから乗降地点を選ぶと近くを走るバスが迎えに来てくれるという機能があるようです。また、人工知能(AI)が最適な経路を選択してくれます。
地点はバス停のある場所でなくてもよく、高萩駅周辺に多くの「バーチャルバス停」を設定し、200カ所以上から選べるようです。しかし、このような工夫を行っている運行会社でも、経営は厳しいようであり、このような最終の交通手段がなくなると、そのエリアの不動産価値にも影響が出てきます。これから不動産購入を予定しているエリアで「コミュニティーバス」だけが交通の手段となってしまっているエリアは今後、廃止になる事も想定しなければなりません。
■「コミュニティーバス」の次は「ライドシェア」となる?!
国も独占禁止法の特例法を設けてバス会社間で地域の路線統廃合を進め、赤字を避ける仕組みを検討し始めています。全国6地域で地域交通の見直しが進み、2023年9月には有識者と「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」を設置し、スクールバスに地域住民も混乗するといった各種施設の送迎と公共交通の連携なども模索しています。
地域の公共交通リ・デザイン実現会議はこちら
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000211.html
バスが消滅すれば交通空白地に許された自家用車による有償運送、いわゆるライドシェアが最後の手段となると言われています。登録車両数は4304台と10年で4割増えたが、利便性の低下は避けられません。人手不足を抜本的に解決する自動運転も資金がなければ投資は続けられず、実態はどうなるかは不透明です。
また、バスの運行を公費で支えようとする自治体も出ています。富山市は高齢者の市内バス運賃を市の負担で100円に割り引く「おでかけ定期券」を開始しました。栃木県小山市はコミュニティーバスの運賃を最大7割引にする定期券「noroca」を導入し、茨城県常陸太田市は中学生が市内路線バスに無料で乗れる「中学生フリー定期券」を配布し始めました。
国立国会図書館の調査によると、ドイツは州がバスなどの維持に補助できるようガソリンなどの税を原資に約1兆円の財源を連邦が拠出していたり、フランスは自治体が公共交通の運行費用の8割を補助する仕組みで、交通税を通じて住民に幅広く負担を求めているようです。
不動産購入をする際に、「駅から離れても良い」「田舎暮らしをしたい」いうシーンをコロナ禍で良く聞くようになりました。しかし、コロナが落ち着き、やはり不動産は「立地」にこだわり駅近、利便の良いエリアを好まれる傾向は否めません。そのような状況を考慮し、「コミュニティーバス」、「ライドシェア」に頼らなくても生活が出来る不動産を検討していただきたいと思います。
今後の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕