インスペクションに関する勘違いシリーズです。
今回は「任意」という点についてご説明します。
改正宅建業法の施行で勘違いしている宅建業者が多いのですが、建物状況調査は任意です。義務ではありません。
※改正宅建業法で義務化されたのは、建物状況調査に関する情報提供についてです。
建物状況調査を実施していないからといって、そのことを理由に売主様を責める材料にはなりません。
例えば、引き渡し1年後に雨漏れが発生したとします。
この取引では建物状況調査が実施されておらず、既存住宅売買瑕疵保険にも加入していなかったと仮定します。(個人間売買で瑕疵の期間が3か月の契約とします)
この時、買主は売主に雨漏れの補修を求めることができるでしょうか。
答えは「NO」です。
まず、売買契約上の売主の瑕疵責任の期間が過ぎているので、売買契約を盾に売主に補修を求めることはできません。
続いて、雨漏れが発生しうる状況であったことの情報提供がなされていないことについてはどうでしょうか。
こちらも「NO」です。雨漏れが発生しうる状況であることの判断は一般の消費者には困難で、売却に当たって調査を行わなければならない義務がないからです。
最後に建物状況調査が実施されていないことについて、売主の非を責めることができるでしょうか。
これも「NO」です。
建物状況調査が実施されているかどうかは、契約時に明らかです。(重要事項説明書に記載されます)したがって、建物状況調査が実施されていないことを承知で購入したということになります。
仮に売主が宅建業者であったらどうでしょう。
売主が宅建業者の場合は、最低2年の瑕疵担保責任があるので、その事業者が倒産していない限り補修を求めることができます。
ただ、建物状況調査の実施については、売主が宅建業者であっても任意となります。
引き渡しからあまり時間がたっていないのに大きな劣化が見られると、「知っていたら買わなかったのに」と言いたくなるのですが、ここで言う「知っていたら」については、売主だけでなく買主にも責任の一端があることに注意しなければなりません。
売買契約までにインスペクションを実施するということは、万が一他の人にその物件が売れてしまってインスペクション費用が無駄になるというリスクを負ってしまうのですが、売買契約を締結してしまうと、インスペクション結果が思ったよりも悪かったからと言って、そのことを理由に白紙撤回することはできませんので、木造戸建て住宅で、相応の年数が経過している建物を検討する場合は、なるべく売買契約前にインスペクションを実施したいものです。
※今のところ、インスペクションが実施されているから高く売れるというわけではないので、売主が予めインスペクションを実施しているケースが少ないのですが、本当は売主が予めインスペクションを実施していて、その情報を開示してくれれば、もっと中古物件が買いやすくなると思うのですが、これについては今後の市場の動向を眺めるしかありませんね。
結局のところ、現況有姿という名目のもと、買主の自己責任が求められるケースが多いままなのですが、せっかくできた制度なので、防衛手段として、売買契約前のインスペクションを活用したいものです。
リニュアル仲介の稲瀬でした。
※このシリーズは数回続きます。