■「津波災害警戒区域」の指定状況について
国土交通省によると、津波被害の恐れがある40都道府県のうち、指定を終えたのは3割の11府県にとどまるとの発表がありました。東日本大震災の教訓を踏まえた「津波災害警戒区域」の指定が進んでいません。その理由としては地価下落などを懸念する地元との調整が難航している現状が浮き彫りになります。最大級の津波に備えた対策の強化に水を差しかねません。3月20日の夕方にも宮城県沖を震源とした震度5強の地震が発生し、東日本大震災を思い出した方も多かったようです。
国土交通省によると、警戒区域の指定を完了したのは愛知県や山形県など11府県にとどまり、北海道や静岡県、和歌山県など6道県は一部の市町村のみ指定し、23都府県は全く指定されていないといった状況との事です。
震災の津波で甚大な被害が出た岩手県、宮城県の2県は、かさ上げ造成工事などが続き、区域指定の前提となる浸水想定も終わっていません。原子力発電所事故により一部地域で避難指示が続く福島県も未指定となっているのが現状です。
2011年の東日本大震災の大津波は沿岸の防潮堤を乗り越え、指定避難場所の自治体施設も浸水して多くの犠牲者を出し、その教訓を踏まえた最大級の津波を想定した対策を進めるために「津波防災地域づくり法」が作られました。
「津波防災地域づくり法」に基づいて都道府県が警戒区域を指定した後、区域内の学校や病院は避難計画を作り、市町村は避難先の施設を決めるなど、対策の強化が進められます。区域指定が遅れればその分、対策も遅れることになる。警戒区域の指定は義務ではなく、指定をせずに独自の対策に取り組んでいる自治体もあるようです。これに対し、国土交通省は「避難体制の整備や住民の防災意識向上に寄与する」と区域指定の効果を説明して自治体に対応を促しています。
■不動産購入時には津波災害警戒区域の現状を把握し、次の地震発生に備えましょう。
高知県はこれまで区域指定を行わず、南海トラフ地震に備えて独自の対策に取り組んできました。しかし、県民の意識調査で早期避難を意識している人の割合は2013年度の69.5%をピークに伸び悩んでいます。その為、高知県では「一段と強い意識啓発が必要」と判断し、2021年度中の指定を目指して作業を始めています。
多くの都道府県で区域指定のハードルとなっているのは、関係市町村や住民との合意形成が得られないという事です。危険なイメージが定着し、地価下落や風評被害につながると懸念する声が多いようです。しかし、実際に被害が発生指定からでは遅い為、早めの対策が必要となるということと、このような区域指定が発表されていないエリアでも、該当するようなエリアにおいては住宅購入時に注意が必要です。
新潟県は2020年1月に12市町村を警戒区域に指定しました。しかし、想定浸水面積が最も広い新潟市とは合意に至らなかったという経緯もございます。新潟市によると、県が浸水を想定する1万ヘクタールのおよそ半分は12時間以上かかって水が流れ込む内陸部の低地。市側は「津波が直撃する沿岸部と同様に扱うと制約が過大になりかねない」と対象を絞るよう求めているようです。正直、東日本大震災でもあれほどの被害が出る事を予想していた人は少ないとも思いますので、慎重な対策が必要だと思います。
■不動産購入時にはハザードマップの確認は必須。また自治体の事前対策準備の状況も確認しましょう。
ハザードマップや避難計画作り、避難所の準備など、市町村に防災関係の負担が集中しています。津波、洪水や高潮など市町村がやるべき災害対策は多岐にわたり、国や県が技術的・人的にサポートする仕組みを取り入れるなど、負担軽減を図る必要があるようです。
また、静岡県伊豆市は「特別警戒区域」が全国で唯一指定されたエリアとして注目されています。伊豆市は南海トラフ地震で最大10メートルの津波が最短6分で到達すると想定されており、2018年3月、「警戒区域」より厳しい規制の対象となる「特別警戒区域」が指定された市です。指定区域にはホテルや旅館、住宅などが立ち並び、当初は地域の経済やイメージへの影響を懸念する声が大きかったようですが、市は住民や旅館、観光団体向けに説明会を2年間で計50回ほど開き、制度の説明や住民との意見交換に時間をかけてきたようです。
このように警戒区域を指定するにも合意形成が必要であることを知っておく必要があります。
不動産購入時にはここまで慎重に調べてご自宅探しをされる方は少ないかと思いますが、万が一の備えを考慮し、不動産購入を検討していただきたいと思います。今後の参考にお役立て下さい。
法人営業部 犬木 裕