不動産取引ガイド

耐震改修済み物件はお得なのか

中古物件を検討する際にどうしても気になる「耐震性」。
築年数が古い物件は耐震性が確保されていないと、住宅ローン減税のような各種補助制度が利用できません。
なにより日本は地震大国なので、大規模な地震で自宅が倒壊してしまう恐れがあります。

今回のテーマは「耐震改修済みの売り物件」です。
改修済みならお得な感じがしますが、本当にそうでしょうか。
実は耐震改修済みの売り物件にはとんでもない罠が潜んでいます。
物件広告に「耐震改修済み」とある物件は建築士による適切な判断が必要な要注意物件であることをご説明いたします。

マンションの耐震改修済み物件

マンションの耐震改修はほとんど進んでいません。
従って耐震改修済みのマンションは非常にレア物件と言えます。
耐震改修済みのマンションに遭遇したら、まず売主もしくは売主側の仲介会社に「耐震基準適合証明書は発行可能か?」と確認しましょう。

この時に「わからない」「耐震診断を行った履歴はある」といったように「発行可能です」と明確な回答がない場合は要注意物件となります。

マンションの耐震基準適合証明書は、一般の建築士事務所ではなく、マンションの検査を専門で取り扱う事業者へ依頼する必要があります。
もし本当に耐震改修を行ったマンションであれば、その改修工事に携わった建築士事務所に耐震基準適合証明書を発行してもらうのが一番スムーズです。
管理組合が当時の資料を残しているはずなので、売主(もしくは売主側仲介会社)を通じて管理組合に建築士事務所の連絡先を確認して、問い合わせを行うことから手続きを始めます。

耐震診断の履歴はあるものの、耐震改修工事の履歴が不明な場合は、診断だけの実施で工事を実施していないケースが想定されます。
こちらも管理組合が当時の履歴を保管しているので、本当に改修工事を実施したのかどうかを確認することが大切です。

旧耐震のマンションで耐震改修済みの物件は自治体による補助制度を利用している可能性が高いです。
工事に自治体が絡む場合は、耐震基準適合証明書も自治体に発行依頼しなければならない場合がありますので、証明書が発行されるまでに時間がかかってしまう恐れがあります。

木造戸建ての耐震改修済み物件

それでは本題となります。
もし検討している物件が耐震改修済みの木造住宅だった場合は、その物件の購入を見合わせた方が良いかもしれません。

耐震基準適合証明書を発行するためには、耐震診断、改修設計、改修工事、改修工事後の再診断が必要となりますが、当時の履歴がきちんと保管されていないケースがほとんどです。
特に改修工事の履歴が問題で、設計通り正しく改修工事が実施されたのかを第3者が確認することが非常に難しいのです。
耐震改修工事は壁の補強工事が中心となりますが、細かな例を挙げると、使用するビスやビスの間隔、ビスの打ち方が性能に影響します。
1本1本のビスを記録するわけにはいきませんので、第3者が評価できるほどの資料は残されていないのです。

耐震改修済みの物件の検討を進めたい場合は、まずは当時施工に携わった建築士と連絡が取れるかが重要となります。
上記のように施工の細かな部分までは資料として残されていないので、当時施工に関わった建築士事務所に耐震基準適合証明書を発行してもらうしか方法がありません。

もし当時の資料も残されておらず、施工した事業者や建築士にもコンタクトが取れない場合は、実施した改修工事はなかったものとして再評価する必要があります。
ただ、広い家なら別ですが、一般的な間取りを想定すると、耐震改修工事を実施できる箇所は限られるので、結果的に過去に改修工事を行ったところを解体してもう一度補強工事を行うという、かなり無理のある施工が求められます。

耐震基準適合証明書を発行するということはその建物の耐震性に責任を持つということ

耐震基準適合証明書は単なる書類ではありません。
その名の通り、その建物の耐震性が基準をクリアしていることを建築士が認めた証となります。
当然ながらいい加減な証明書発行は罰せられます。
建築業界以外の方にはあまり知られていないのですが、建築士の罰則は非常に厳しいです。
発行に携わった建築士事務所はもちろん、建築士個人も罪に問われます。
※2005年の構造計算書偽造問題を受けて建築士法が改正され、非常に重たい罰則規定が設けられています。
耐震基準適合証明書は、自身が施工に関わる案件でなければ気軽に発行できるものではないのです。

耐震基準適合証明書は耐震改修工事とセットで依頼するものと判断しておくことが現実的です。
売主が耐震基準適合証明書の発行まで面倒見てくれるのであれば良いのですが、そうでない場合は、売主が耐震改修済みと言い張ってもそれを鵜呑みにするこはできません。

いかがでしょうか。
耐震改修済みは決してお得な物件ではないことがご理解いただけたかと思います。
実際のところ木造でもマンションでも耐震改修済みの物件に当たることは非常に稀なケースなのですが、中古物件の場合は確認しなければならないのは耐震性だけではないので、特に木造戸建てを検討される場合は、必ず建築士によるインスペクションを実施し、問題点がないか確認したいところです。

火災保険の基礎知識 知っておきたいポイント(その3)前のページ

契約時に注意したい売主の意思能力次のページ

ピックアップ記事

  1. 住宅購入と 生涯の資金計画
  2. 買ってはいけない物件を自分でチェック
  3. 土地価格の相場を知る方法
  4. 建物インスペクションを実施する最適なタイミングとは?
  5. 立地適正化計画をご存知ですか?

関連記事

  1. 不動産取引ガイド

    コロナ禍の不動産売買仲介は『IT重説+WEB契約』で3密を回避する?!

    ■ そもそも不動産売買仲介のIT重説とは何?!不動産の売買仲介にお…

  2. 不動産取引ガイド

    「空き家」になったら、なるべく早く売却or賃貸?!

    高齢者が老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに転居し、…

  3. 不動産取引ガイド

    不動産の4つの価格 その3 「路線価」

    前回は、不動産の4つの価格のうち、「固定資産税評価…

  4. 不動産取引ガイド

    憧れの一戸建て。リアルに買えるエリアの見つけ方。【後編】

    今回は、後編として「地価公示・都道府県地価調査の情報を用いて俯瞰し、現…

  5. 不動産取引ガイド

    日本経済の成長率が与える不動産市況について!

    日本銀行が15日の金融政策決定会合で、2015年度の実質経済成長率の見…

  1. 不動産取引ガイド

    地価には標高が影響する!?「国分寺駅」サンプルに検証。
  2. お金・ローン・税金

    賃貸VS持家という鉄板ネタ
  3. 不動産取引ガイド

    2019 年4月度の不動産相場
  4. 不動産取引ガイド

    地名に刻まれる水害の歴史
  5. 不動産取引ガイド

    旧耐震マンションにフルリノベ
PAGE TOP